勤務医のページ
はじめに
新しく予定、検討されている新たな専門医の仕組みの中で、総合診療専門医が基本領域の第19番目の専門医として位置づけられた。
そして、
①日常遭遇する疾患や障害に対して適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的に提供する
②疾病の予防、介護、看取り、地域の保健福祉活動など、人々の命と健康に関する幅広い健康問題について、適切な対応ができる医師
と定義された。
以下、総合診療専門医への期待について想いを述べる。中には偏った捉え方の部分もあるかも知れないが、一つの捉え方として御許し頂ければ幸いである。
期待される役割
総合診療専門医には、地域によって異なるニーズに的確に対応できる「地域を診る医師」としての視点も重要であり、他の領域別専門医や多職種と連携して多様な医療サービスを包括的かつ柔軟に提供することが期待されるとされた。
まさに、昔から全国のかかりつけ医や中小病院に勤務する医師が、かかりつけ医機能を発揮して活躍して頂いている姿そのものではないだろうか。
超高齢社会となり疾病構造が変化し、生活習慣病が中心となった。そして治療の姿がキュアからケアへと変わってきた。多くの疾患を併発する高齢者や介護保険を利用する患者にとって、一人の領域別専門医や限られた地域だけで治療を完結することが、ますます厳しくなってきている。
一方、全国のへき地、離島では、医療や社会資源に限りがあるため、昔から地域なりの地域包括ケアがなされてきたのではないか。しかし、このことを支えたのは、全国の自治医科大学卒業の義務年限内の医師の適切な配置のお陰だと感謝している。
地方の大学医局によるへき地への医師派遣機能が低下し、地域の医師確保が極めて厳しい状況にある。こういう背景の中で、自治医科大学を卒業した医師の各県の配置によって、ぎりぎりではあるが、地域医療の崩壊をどうにか食い止めてきたのではないか。この配置システムのお陰で、へき地・離島での地域包括ケアシステムの構築がどうにかできてきているのではないだろうか。
地域医療構想が各都道府県で今年度中に策定され、各二次医療圏ごとに調整会議が位置づけられ、検討が始まっている。
参照となるデータが示されている中で、今後どのような提供体制が地域で暮らす人々にとって期待され、現実の暮らしの中で、「あることのできる姿」なのかを議論していくことが重要と考える。
まさに、地域包括ケアシステムの構築が、地域の暮らしの中で大変重要な鍵となるのではないだろうか。ここにおいて中心的役割を期待されているのが、総合診療専門医ではないかと捉えている。
今日、活躍しているかかりつけ医は、そのまま総合診療専門医の姿ではないだろうか。新しく養成される総合診療専門医も、かかりつけ医として活躍していくことが、また中小病院に勤務する総合診療専門医も、かかりつけ医機能をしっかり発揮していくことが、期待される役割となるのではないか。他の領域別の専門医、あるいはサブスペシャリストとの二人三脚で総合的な診療を提供していくことが、地域包括ケアの核となるのではないかと考えている。
総合診療専門医の育成
総合診療専門医の育成の場は、全国のへき地、離島、中小病院が最も適した場だと考えている。
医師は「患者によって医師になっていく」ので、これらの場で国民にとって期待される総合診療専門医が育っていくのではないだろうか。
今、新しくなった日本専門医機構で、立ち止まって議論が始まっている状況にあるので、初めの定義等の原点に立ち返って、総合診療専門医の議論も進むことを大いに期待している。
当然ではあるが、他の18領域の専門医との関係性の調整の議論もしっかりと重ねて頂き、総合診療専門医が、特に総合内科専門医との違いについて、国民から見ても、医療提供側から見ても、分かりやすく位置づけられることが必要ではないだろうか。
総合診療専門医を取得後のサブスペシャリストへのキャリアパスも、他の内科専門医や外科専門医と同じように総合診療専門医に示すことが不可欠であり、また、他領域のサブスペシャリストから総合診療専門医への転向が位置づけられるように、この立ち止まった期間にしっかりと議論して頂きたいと願っている。
これらを踏まえて、整備基準が決定され、プログラムをつくり、これからの専攻医に提示していくことが必要ではないかと考えている。また、全国のかかりつけ医として活躍されている医師、中小病院等でかかりつけ医機能を担って活躍されている医師、へき地・離島で活躍されている医師に、全て指導医として総合診療専門医の育成に取り組んで頂くことが大変期待されるのではないだろうか。
おわりに
最後になるが、新たな専門医の仕組みについて立ち止まって改めて議論が始まった。地域で暮らしている人々から見て、分かりやすく、安心と信頼をもって、適切に医療が受けられることが最も基本であり、姿ではないだろうか。
そのためにも、今、大切な議論のタイミングでもある。限られた時間しかないかも知れないが、しっかりと集中して検討が重ねられ、新たな専門医の仕組みが、国民にとって、地域の未来にとって、安心で信頼できるものとなり、また、これから総合診療専門医を目指す医師にとっても分かりやすく、そして誇りも感じることができる姿になっていって欲しいと願っている。