平成29年(2017年)1月20日(金) / 日医ニュース
中部医師会連合の勤務医特別委員会での議論から―勤務医の視点から考える「医療事故調査制度」―
浜松医科大学医学部付属病院医療福祉支援センター長/静岡県医師会理事 小林利彦
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平成28年度中部医師会連合にて、特別委員会として「社会保険特別委員会」「介護保険特別委員会」「勤務医特別委員会」が設置され、平成28年8月から10月にかけて直近の話題等を協議事項に取り上げた密な議論が行われた。
勤務医特別委員会は、名古屋市で同年8月28日(第1回)と9月25日(第2回)に開催され、第1回の委員会においては「医療事故調査制度」についての協議がなされた。
その中での議論の内容を踏まえ、本制度に関して思うことを勤務医の立場で述べたい。
医療事故調査制度は、医療法の一部改正の下、平成27年10月1日から施行された制度であるが、種々の課題が山積みされたまま発足したこともあり、施行から1年以上が経過した今も、順風満帆に進んでいるとは言えない。
中央では、実際の報告件数が想定より少ないことが問題視されているが、本質的な議論はそこにはないと思われる。実際、本制度の趣意等は厚生労働省のホームページに詳細な記載があるが、「本制度は医療安全の確保を目的とし、紛争解決・責任追及を目的としない」という大原則に、医療関係者は今一度立ち戻る必要があると考える。
本制度の基盤ともされたWHOドラフトガイドラインでは、「学習のための事故報告制度」と「説明責任のための事故報告制度」は分けるべきとしており、今回の医療事故調査制度は前者の立場で設立されたものであることを再認識したい。
支援団体等連絡協議会の実効性ある活動に期待
勤務医特別委員会では、第1回の開催に向けて、中部7県の担当事務局に「医療事故調査制度についての医師会アンケート調査」を依頼・実施した。
主な質問項目は、医師会の支援団体としての体制、これまでの相談実績、剖検及びAiシステムの運用、事故調査への介入状況などである。
相談対応に関しては、「24時間体制」が取られているのは3県(愛知・三重・石川)であり、残り4県(静岡・岐阜・福井・富山)では、時間外はホットライン等での対応であった。
また、全ての県で、支援団体等は数多く設置され機能しており、剖検やAiシステムの運用もおおむね確立してはいるものの、「病院」における医療事故調査事例に関しては、十分な情報提供(情報共有)や相談・支援依頼などの実績が少ない状況にあった。
更に、平成28年6月24日付厚労省令にて、各都道府県に「支援団体等連絡協議会」を1カ所設置し、情報収集・意見交換に努めるとともに研修会等の実施を求めているが、中部7県のうち石川県を除き実効性のある活動はこれからの状況であり、同協議会の運営や研修会等の実施に向けた予算措置などが課題として挙げられた。
全体の協議の中で感じたのは、本制度の遂行に当たり、全ての県医師会が限られたマンパワーの下、支援依頼を受けた事例については適切に対応しているものの、各病院では従前と同様な院内処理プロセスが続いており、県医師会として県内の報告件数や各事例の状況を情報共有するには至っていないということであった。
今後、県医師会が主導していく「支援団体等連絡協議会」での実効性ある活動に期待したい。
医師会は一般勤務医と良好な関係構築を
さて、私自身、現在、病院の勤務医として県医師会理事の立場にあるが、本制度について思うことはいくつかある。
そもそも、十数年前に病院内で発生した大きな医療事故等の反省から、医療界全体として「医療安全対策」に関するさまざまな取り組みを続けてきた。
インシデント・アクシデント事例の収集や分析・検討に始まり、重症事例・死亡症例等のケースカンファレンスの開催、第三者を招聘(しょうへい)しての医療事故調査委員会等の設置など、恐らく地域における基幹病院ではその種の対応が十年以上実施され、多くの勤務医の医療安全に対する認識は大きく変わってきたはずである。
しかし、社会(国民)からの本領域への認識は、医療機関内で働く医療者のものとは異なり、結果、法制度化することで強制力を持たせたとも言える。
『To Err is Human』が知れ渡り、従来の「モグラたたき」から「システム改善」へと方向転換したものの、組織内のコミュニケーションエラーやガバナンス不足が問われ、ノンテクニカル・スキルの重要性は、現在、レジリエンス・システムの構築へと議論が動いている。
医療安全は、医学と同様に「学問」であるべきと私は考える。先に述べたように、本制度が医療安全確保のための仕組みとして成立したものであれば、そのための「原因分析」のみを行うべきであり、「原因究明」は責任追及と結び付くことから、医療安全の確保と並列かつ同時に行う仕組みとしては機能しないものと考える。
ところが、医師法21条の誤解釈に基づく過去のトラウマなどもあり、今回の制度を「紛争解決」のためにも利用しようとする流れが止まらない印象にある。実際、中央への報告例には、家族等から追及されたため報告に至ったとする事例が少なくない。
あくまで、医療の内(医療安全・再発防止)と医療の外(紛争)は明確に切り分けるべきという原点に戻ることが必要である。
最後に、本制度の行方を「医師会」として重視している姿勢は十分理解できるが、勤務医、特に第一線で活躍している現場医師の会員が比較的少ない状況の下、医師会は一般勤務医との話し合いの場をもっと設けていき、同じ問題意識の下、良好な関係構築を図ることが重要である。
それが、結果的に勤務医の医師会入会促進にもつながるはずである。