勤務医のページ
前列左から、中川、市川、泉、守屋
後列左から、矢嶋、小林、木村の各氏
前列左から、中川、市川、泉、守屋
後列左から、矢嶋、小林、木村の各氏
日医の勤務医委員会では、8月4日、「勤務医の参画を促すための地域医師会活動について」をテーマに座談会を開催した。今後、3回にわたって掲載する。 |
---|
泉(司会) 本日は、皆さんの思いを伝えて頂ければと思います。
市川 本日は、忌憚(きたん)ないご意見をお聞かせ下さい。
泉 それでは、「医師の働き方」についてご発言下さい。
小林 医師が労働者か否かという両極の議論はすべきではないと思います。どこまでが業務で、学習で、教育なのかは分かりません。そもそも医師はキャリアパスの中で、10年程度で一人前となって、65歳になっても働いて貢献していくものです。最初の頃にあまり労働時間という形で制限すると、学びたいことが学べない可能性も出てきます。
業務の効率化を図りながら、医師のキャリアパスを考えた労働時間、学習時間、教育期間を考えるべきだと思います。
中川 実際に当事者として患者さんに関わらないと、勉強したことが身に付かないという側面もあるのではないでしょうか。私自身、昔ながらの自分が診療した範囲から一つひとつ学んでいくことが、時間は掛かっても身になるものだと感じており、そういう意味では、背中で教える伝統的な日本の医学教育のスタイルも非常に重要だと思っています。
人格の涵養(かんよう)をする部分と、スキルを身に付ける部分は同時に進むべきものであって、ライフイベントに合わせて仕事量が変わったとしても、その中で学びを見つけて学習するというスタイルが、臨床医を育てる上では重要なのではないでしょうか。
矢嶋 労働時間の線引きは明らかに難しくて、ある病院では教育の時間を勤務時間に入れていますし、片や、「勤務時間が過ぎたので、勉強会を中止する」という病院もあり、教育の時間不足によって医療の質の担保自体が以前に比べて難しくなってきていると思っています。
一般企業が教育や研修も含めて、一定の時間内で終わらせていることを考えれば、医師も同じような枠組みで、一つの時間帯として考えるべきではないかと思います。そうすると、医師は人員が限られており、さまざまな業務を行うことは難しくなるので、医師数を増やすか、医師が行っている業務を他の職種にお願いをするのか、二つしかないと思います。
実際、医師数を増やすのは難しいと思いますので、看護師の医療行為の範囲を広げるか、書類等の作成についても大幅に医師事務作業補助者に依頼するなどを、国として積極的に進めていくのであれば、医師も本来すべき仕事に集中できるのではないかと思っています。ある程度大鉈(おおなた)を振るわない限りは、進まないと思います。
守屋 病院で女性医師の復職問題を扱っていますが、子どもを育てながら常勤で働くのは難しいとおっしゃる方が多いです。私自身も2年目の時に出産しましたが、復職後、技術習得に非常に時間が掛かりました。私を再教育する上司や同僚も、他にも仕事があるのに、私に手を取られるので申し訳なく思っていました。
医師が本来の仕事に専念するためにも、看護師や医療クラークとのジョブシェアリングが出てくると思いますが、一方的に仕事を押し付けるのではなく、看護師等の希望なども聞きながら進めていく必要があると思います。看護師を含めて、コメディカルを育てるという気持ちが必要だと思います。
木村 一つは診療科間の偏在がありますし、同じ診療科であっても、院長クラスの先生と科長、中堅とレジデント、あるいは、研修医の中でも温度差があり、それを一つの総労働時間だけで話すのは難しいと思います。
私が勤務する脳神経外科は二交代勤務を取り入れて、翌日は帰れるようになったのですが、超過勤務が付けやすくなった結果、むしろ超過勤務が増えたという実態があります。必ずしも二交代勤務にすれば労働時間が改善するものではないと思います。
矢嶋 教育研修に関して時間の使い方を考えなければなりません。症候学などの型どおりのものと、症例ベースのディスカッションメインのものの2パターンがあると思います。前者に関しては、e-learningなどによって各自で修得してもらい、後者は上級医の経験や知識を共有できる大切な教育機会であり、皆が一つの場所に集まり労働時間内に組み込んで行うべきと考えます。
守屋 久留米大学病院では、昨年度、厚生労働省の女性医師キャリア支援モデル普及推進事業を受託し、復職支援について取り組みました。
その時参考にしたのが看護師の臨床実践能力習熟段階評価表で、それを参考にして小児科のアレルギー専門医を目指す医師用のものをつくってもらいました。
特に女性医師で、育児で休職された方は、自分ではできると思っていても、復職してみるとできなかったり、逆に「できなくなっているかも知れない」「ついていけないかも知れない」と危惧されて復職できないという話を聞くことがあります。この評価表を使って経時的に評価しながらやっていくと、ステップアップできているところと補うべきところが視覚的にも分かるので、昨年末から取り組んでいます。
小林 私はOJT(On-the-Job Training)が基本にあるべきだと思っていますが、勤務時間内の学習という点については、診療科間の差が極めて大きいと感じています。
例えば定時でほぼ帰れる上、勤務時間内にカンファレンスや教育の時間が取れる診療科と、不夜城のように仕事をして、その仕事の中で教育を行っている診療科とは、議論が嚙み合わないと思うのです。
むしろ不夜城のような診療科では交代制を敷いて、はっきり8時間労働で区切っていく。手術中はなかなか代われませんが、周産期関連の業務では十分代われると思いますので、そういうスタイルにしていくことが、医療事故を防ぐ観点からも重要だと考えます。給与体系も含めて全部変えないと、うまくいかないと思います。
木村 診療科による評価は非常に難しくて、例えば私は脳外科医で、夜も働いていますが、では楽だから別の診療科に行きたいかというと、ノーです。ですから、医師を一括りで考えるのは無理があります。かといって、診療科やスキルによって賃金を変えるのも、医師の特質として無理があるのではないでしょうか。
働き方という意味では、例えば開閉頭を下の者にやらせている間、私は病棟業務をやるとか、一つの長い手術の中でもメリハリはつくので、そういう中で少しずつオーバーラップさせてトレーニングすることはできると思います。
中川 研修医の考え方もだいぶ変わってきているように感じます。ある程度患者さんに対して自分が責任を持って診療するという気持ちになった瞬間に、勉強の時間が労働という意識ではなくなるのですが、そのタイミングが研修医によってだいぶ違うのではないでしょうか。
労働に対してさまざまな感覚を持つ医師が共存できるよう、医師免許がなくてもできることは診療科専属のメディカルクラークにサポートしてもらい、ディクテーションをしながら回診し、カルテの作成も同時に行うなどの工夫をして対策しています。
多くの医師が続けられることで、気持ちが変わったタイミングがきた時に、夢中になれるだけの土壌とチャンスは残してあげられるようなシステムをつくっています。
守屋 メンタリティーの問題も重要です。必ずしも長時間労働だけが過労死の原因にはなりませんので、メンタリティーの異変にも早く気づくことができるよう、管理職は配慮すべきだと思います。
小林 外科系の先生は、手術が終わっても病棟から呼ばれる可能性があるので、医局に残っている人が多くいます。
まずは、主治医制という概念にとらわれず、他の医師にも患者さんを任せられるような組織文化を、患者さんへの啓発も含めて、進めていかなければならないと思います。
木村 大事なことは、私の世代の人間が、若手医師がやっていることを理解するだけで十分だと思うのです。
新医師臨床研修制度が始まってから、既に10年以上が経過し、多くの臨床研修医が研修を修了しています。彼らがルールをつくっていく時に、上の人間が彼らのやることを理解すれば、後10年もすると、自然に変わっていくと思うのです。
中川 奥さんが妊娠したのを契機として、40代の男性医師に8カ月間、土・日休みの当直なしで、出産後しばらくは毎日10時から4時までの勤務という形で働いて頂きました。
まずは40~50代ぐらいの、発言自体がその科に影響があるような先生が休むというところから始めると、科全体の雰囲気と文化が変わってくると思っています。
勤務医座談会出席者
泉 良平 【司会】(日医勤務医委員会委員長・富山県医師会副会長) 木村 尚人(岩手県立中央病院医療研修科長兼脳神経外科医長) 小林 利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授・静岡県医師会理事) 中川 麗(札幌徳洲会病院プライマリセンター センター長) 守屋普久子(久留米大学医学部病理学講座助教/同大学病院男女共同参画事業推進委員会副委員長) 矢嶋 宣幸(昭和大学リウマチ膠原病内科講師) 市川 朝洋(日医常任理事) (敬称略)
|