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平成29年(2017年)10月20日(金) / 日医ニュース

「勤務医の参画を促すための地域医師会活動について」をテーマに

勤務医のページ

泉 委員長

泉 委員長

 泉(司会) 「医師の働き方」のテーマに続いて、「新たな専門医の仕組み」についてご発言下さい。
 小林 私自身は専門医という言葉に引っ掛かっています。今回の仕組みは、昔で言う認定医に近いイメージであり、これから何科へ進むという、単なる手挙げだと思っているのです。
 昔の認定医であれば、ある程度どこの地域でも研修はできるだろうと思います。
 しかし、本来専門医はもっとその後にしっかり修練しないといけません。
 専門医研修をする際に、教育の資源がしっかりあって症例数が多いところでやろうと思うと、地方では難しく、教育という側面から考えると、どうしても地域偏在は起きてしまう。
 むしろ、専門医として一人前になってから、地域をある程度回るような仕組みをつくる方がいいのではないかと思います。171020l2.jpg
 矢嶋 今後のスケジュールの決め方については、少し乱暴な感じはあると思っています。
 受け入れ側の病院では、あまり理解できていないまま、来年の4月から始まるということを突然言われ、学生もその辺を気にしながら、どの研修場所を選ぼうかと迷いながら相談しに来るのです。
 新たな専門医の仕組みは、各学会が、それぞれの観点から専門医を認定していたことを是正しようというのがそもそもの始まりだったと思います。
 しかし、その専門医をどういった定義をもって決めるかという議論が十分でないままに、どういったプログラムをつくるかということが先行してしまった感があります。171020l3.jpg
 木村 脳外科は学会自体が大学の先生が中心になって動いている組織なので、大学の一極集中が強いです。
 恐らく、ほとんどの基幹施設が大学で、例えば国立循環器病研究センターのように、多くのレジデントが今まで行っていたところが、逆に専門性が強すぎて専門医が取れないという、逆説的なことも起きています。
 医師会はそれを是正できる組織ですので、そういうところで大きい役割を果たしてくれるのではないかと思っています。
 新たな専門医の仕組みがスタートして、一番割を食うのは、都道府県の大きな病院だと思います。
 今まではレジデントとして残っていて、キャリアの途中でも専門医を取りに大学に戻ったりできたのが、大学のプログラムに参加しないと研修ができなくなってしまう。病院に一年目、二年目と残っていても、プログラムに参加していなければ意味がなくなってしまうということです。
 小林 地域の中小病院に比べれば、県立病院はまだ恵まれているのかも知れません。
 守屋 福岡県には医学部を持つ大学が四つあります。今でも研修医は九州大学に集中していますが、新たな専門医の仕組みがスタートすると、その波がもっと大きくなるのではないかと心配しています。
 私が勤務している病院は、周辺地域にも多数の医師を派遣していますので、地域の医療を守るという観点からも、非常に重要な問題になってきます。その辺りの整備が必要なのではないかと思います。
 専門医の認定については、妊娠・出産で休むことへの半年間の配慮はありますが、少し期間が短いように思います。
 また、専門医を取得する前の医師は、技術的に未熟な部分もありますので、休職中の分も合わせて技術習得していくのは、とても難しいのではないかと感じます。
 その他、ローテーションで回る際、例えばメンターを一人決めて、技術的な進歩の評価や、メンタル的なアドバイスもするような制度を設けた方がよいのではないかと思っています。171020l4.jpg
 中川 ダブルボードは妨げないとなってはいますが、実質的には、一つの診療科しか専門医が取れなくなってしまうのではないかと感じています。
 そうすると、医師のライフイベントに合わせて診療科をシフトしたり、お互いに時間外診療などをシェアしていくという選択肢がなくなりますし、医師の労働問題という部分でも、大きな問題だと感じています。
 若手医師の中には、「今はこの分野に興味があるけれども、将来の就業継続性やQOL等も考えて診療科を選択する。でも興味はないから、専門医を取っても、食べていくための専門医なので」という表現をする者もいます。
 こうした状況が続くと、診療科によっては、技術の発展が途絶えたり、後継者不足に悩んだりして、国民の健康維持という部分にも影響が起きるのではないかと気になっています。171020l5.jpg
  それでは次は、「医療事故調査制度」についてご発言下さい。
 中川 複数の病院を転院する患者さんも少なくありません。
 そのような患者さんが亡くなった場合、一番最初にその処置や介入を始めた病院の責任なのか、その後、紹介を受けた病院の責任として対応すべきなのか悩ましく感じています。
 医療事故調査制度が入るか入らないかということをきっかけに、ご家族の中に当初はなかった疑惑の念が膨らんでしまい、大きな誤解を招くこともあります。
 私は「医療事故調査」という表現の仕方が、問題を難しくしているように感じているのですが、皆さんはいかがでしょうか。
 守屋 病理医の立場から言いますと、以前、厚生労働省のモデル事業を福岡県内で行いましたが、責任のかなり重い解剖になりますので、実績のある病理医が解剖に行かないといけないということになってきます。そういう人手を確保するという問題も大きいように思います。
 木村 岩手県の医療事故調査制度はおおむねうまくいっています。
 問題点の一つとしては、同制度の対象であるか否かの線引きがまだ難しいということがあると思います。
 岩手県医師会としては、医療事故調査制度の報告書は、全てご家族にお渡しすると決めています。
 ちなみに、前の病院にいた時に、医療事故調査制度をモデルケースとして走らせたことがありますが、特に問題はなく、実際にも責められたことはありませんでした。
 私の病院では、病院側が守ってくれるという認識の方が強いです。171020l6.jpg
 矢嶋 私はそういった経験はまだありませんが、原因を特定し、それを皆で共有するシステムがあるということであれば、それはとても勉強になりますし、それぞれが注意すべきこととして認識できるのではないかと思います。
 小林 本制度は、本来、いわゆるインシデントを分析して、そこから学ぶということが根幹にあったはずだと思います。
 ところが、原因追究という面があまりにも表に出過ぎ、「医療事故調査」という言葉が非常に混乱を招いていて、どうしても犯人探しになってしまっています。
 中川 「医療事故調査」という言葉を怖がっている若い先生が、「予期せぬ死亡」だということにならないように、患者さんやご家族に病状を悪く説明してしまうような傾向も見て取れるため、指導を行っています。
 こういう形で医療を萎縮させてはいけないと思います。
 木村 確かに予期した死亡、予期しなかった死亡というところがポイントになると思いますが、私達が直接判断して医療事故調査制度の流れに乗ることはなくて、必ず院長を介することになるので、院長に相談するシステムをしっかりすれば、そこまで困ることはないと思います。

 

勤務医座談会出席者
泉  良平【司会】(日医勤務医委員会委員長・富山県医師会副会長)
木村 尚人(岩手県立中央病院医療研修科長兼脳神経外科医長)
小林 利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授・静岡県医師会理事)
中川  麗(札幌徳洲会病院プライマリセンター センター長)
守屋普久子(久留米大学医学部病理学講座助教/同大学病院男女共同参画事業推進委員会副委員長)
矢嶋 宣幸(昭和大学リウマチ膠原病内科講師)
市川 朝洋(日医常任理事)
(敬称略)

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