平成29年(2017年)12月20日(水) / 日医ニュース
メインテーマ「地域社会をつなぐ明日の医療を考えるとき―次世代を担う勤務医の未来創成のために―」
平成29年度全国医師会勤務医部会連絡協議会
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平成29年度(第38回)全国医師会勤務医部会連絡協議会(日医主催、北海道医師会担当)が10月21日、「地域社会をつなぐ明日の医療を考えるとき―次世代を担う勤務医の未来創成のために―」をメインテーマとし、平成6年(第15回)以来23年ぶりに札幌市内で開催され、全国から409名が参加した。
冒頭のあいさつに立った横倉義武会長は、高齢化の更なる進展が見込まれるわが国では、各地域において、急性期の医療から在宅医療、介護までを切れ目なく提供する体制を構築することが必要とした上で、「団塊の世代が75歳以上となる2025年から先の将来をも見据えた、より効率的で効果的な医療提供体制と、地域包括ケアシステムの構築を推進していくことが重要である」と述べた。
また、そうした取り組みを推進し、医療の安全と質を確保していくためには、医師の働き方についても特段の配慮が必要であると指摘。医師自身の健康を確保するとともに、地域医療にも混乱が生じぬよう心を配りながら、医師がその職責を存分に発揮できる環境と持続可能な社会保障制度の実現を目指し、取り組みを進めていくとの考えを示した。
特別講演Ⅰ「世界に羽ばたく日本の医療」
横倉会長は、高齢社会を迎え、社会保障費が今後も増加することを踏まえ、時代に即した改革を医療サイドからも提案し、コスト意識をもった医療提供に臨んでいかなければならないとするとともに、日本の健康寿命を世界トップレベルに押し上げた日本の医療システムを世界に発信することで、世界医師会長として、世界中の人々の幸福の実現に貢献していく決意を示した。
特別講演Ⅱ「人口減少時代の医療提供」
大島一博内閣府大臣官房審議官(経済財政運営・経済社会システム担当)は、高齢化・人口減少、財政赤字など日本の医療を取り巻く厳しい状況を打破する鍵の一つは経済成長にあるとした上で「いい医療」と財政維持の両立に向けての解決方策を五つ提示。「今後、長寿化によって人生100年時代を迎え、60歳で仕事をリタイア後、長くなる地域での暮らしの中で、生活支援や予防・健康づくりは必須となる。地域づくりの中で、市町村の役割と責任は大きく、地域の医師会の市町村に対する協力が重要である」とした。
なお、特別講演2題の間に、広大な面積を有している北海道の少子高齢化や人口減少に伴う、さまざまな問題点の現状を知って頂くため、地域住民や医療を支える方達からコメントを得て北海道医師会が作成したインタビュー動画を放映した。
日本医師会勤務医委員会報告
泉良平勤務医委員会委員長は、平成28・29年度の会長諮問「勤務医の参画を促すための地域医師会活動について」の答申への協議と、医師の働き方改革への勤務医委員会の取り組みについて報告した。
引き続き行われたランチョンセミナーでは、「蝦夷地の医事と医人」と題して、島田保久日本医史学会功労会員・北海道医史学研究会代表幹事の講演が行われ、午前の部を終了した。
シンポジウム
シンポジウムⅠ「地域の現状とその対応」では、五十嵐智嘉子北海道総合研究調査会理事長が、人口減少に拍車がかかっている北海道の現状を報告し、地域の活力維持のための課題として、女性の活躍、生産性の維持・向上と働き方改革の推進などを指摘した。
山田豊北海道医師会勤務医部会運営委員会委員は、当部会が全道の病院に対して実施した「地域医療の現況調査」から、医師の偏在(地域偏在と科の偏在)、医師の高齢化の調査結果について、長谷川直人同委員からは、道東地区(釧路・根室医療圏)において、地域医療再生交付金を利用して平成26年より本格稼働した広域医療情報ネッワークについて、それぞれ発表があった。
シンポジウムⅡ「地域社会をつなぐ新たな挑戦」では、奈良理手稲渓仁会病院救命救急センター長より、本年7月30日から北海道にて開始した患者搬送固定翼機(メディカルウィング)の本格運航に至るまでの経緯について、今井浩三札幌禎心会病院総長からは、ゲノム解析の、特にがんにおいての診療上重要な複数の遺伝子変異の発見と創薬とその効果について、溝上敏文日本IBM株式会社ワトソン事業部ヘルスケア事業開発部長からは、優れた学習機能やデータ処理機能を活かして、病名の特定や文献分析などを行っているWatsonの紹介があり、地域医療に生かせる可能性を示唆した。
シンポジウムⅢ「次世代を担う若手医師の意識」では、昨年、北海道医師会勤務医部会に設置した若手医師専門委員会が企画の段階から担当し、当委員会による「世代間ギャップの現況調査」の結果から見える各世代における意識の違いに関して報告があった。
中川麗同専門委員会委員は、新しい制度の導入に伴い変化する卒後臨床教育の中での医師の技能とその文化の伝承について、上田寛人同委員は、主に男女共同参画に関連する設問について検討した結果について、西田幸代同委員は、地域枠の当事者である学生たちの不安、専門医制度との関連を踏まえて、それぞれ発表を行った。
各シンポジウムでは、それぞれのコメンテーターが総括をした後、フロアを交えた活発なディスカッションが行われた。
また、シンポジウム終了後には、市川朝洋常任理事がコメンテーターとして登壇し、総括を行った。
ほっかいどう宣言採択
最後に、「ほっかいどう宣言」(別掲)が満場一致で採択され、協議会は閉会した。
なお、翌22日には、北海道医師会若手医師専門委員会主催による勤務医交流会が開催され、「勤務医の働き方」をメインテーマとしたワークショップなどが行われた。
ほっかいどう宣言
今日のわが国の急速な人口減少は、著しい生産年齢人口の減少を伴いながら、少子高齢化が進展する人口構成の変化であり、労働生産性向上のための抜本的な「働き方改革」の重要性が強調されている。しかしながら、公益性、倫理性、専門性が強く求められる医師は、患者・社会に貢献する職業人として、高度な学識と技能をもち続けなければならず、その改革には慎重な議論が必要である。社会全体でワークライフバランスの改善に向けた取組みが推進される中、医療界も例外ではなく、勤務医が医師としてのモチベーションを保ち、地域医療を発展させ、自らの人生も豊かにすべく、次のとおり宣言する。 一、医師の働き方改革の議論が、地域医療を守り、地域格差是正につながる仕組みの構築の上になされることを求める。 一、勤務医が多様な働き方を選択・実現できるよう、世代間ギャップを相互に理解し、就労環境を改善する。 一、医師としての自らの職務を自覚し、いきがいを感じながら働き続けられる環境の整備に努める。 平成29年10月21日 全国医師会勤務医部会連絡協議会・北海道
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