勤務医のひろば
医師の働き方改革が話題となっている。医師不足時代を背景にした女性医師の社会活用を長らく研究してきた知見から意見したい。
医師というのはそもそも、疾病の予防・治療などに関わる臨床医としての側面と、基礎医学から社会応用まで研究を通じて医療の質を向上するサイエンティストとしての側面、という二つの社会的責任があるように思う。
しかしながら、現実には日々の臨床に忙殺され、研究をしている医師は大学などの医育機関に所属する医師に限定されている。
医育機関以外で臨床に携わっている医師にとっては、研究というと基礎医学に特徴的な試験管を振るようなイメージを持つと思うが、例えば患者さんの満足度で痛みなどの症状が緩和されるなど、人を対象とした社会医学研究も、最近では医療の質に直結する重要な医学研究であると認識されつつある。
こうした研究仮説は現場の臨床から誕生するため、臨床医による研究マインドはとても重要である。
臨床と研究を両立することは、女性医師が仕事と性別役割分担を両立することと同じくらい難しい。これを両立するためには、女性医師であれば職場の保育所やベビーシッターの利用などが挙げられる。
一方、臨床医が研究を行うためには、メンターの存在や、職場の相談窓口の提供、研究推進の土壌などが重要であることが我々の研究から徐々に明らかになりつつある。
社会医学の領域では、健康の決定因子の中にソーシャルキャピタルという概念があり、コミュニティのつながりにより、健康を守る方向に作用することが知られている。
女性医師にしろ、臨床医の研究マインド醸成にしろ、個人では限界があり、職場のコミュニティや社会の力を活用することが重要である。