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平成30年(2018年)10月20日(土) / 日医ニュース

産婦人科医師29年目

勤務医のひろば

産婦人科医師29年目

産婦人科医師29年目

 当院は、東京都の比較的医療過疎地域にある。今年は小児科医減少が大打撃となりNICUは休止、産科当直は倍増した。産科救急は強烈に楽しいし、現場で必要とされることもありがたい。しかし、学会・会議に加え当直月8回の現実に、健康と家庭の保持は限界に近い。
 かつて医学部面接では「女子で医学部受験?」と聴かれ、臨床実習で「女は不要」と言われた(今は禁忌)。麻酔科研修で、当時は珍しい女性教授に「医局で姫なんて呼ばれているようでは駄目!」と叱咤(しった)され、早く爺さまになりたいと思った(婆さまはまず見なかった)。ボヤボヤするうち、大学の産婦人科で自分が女性最年長になってしまい、もはや姫でも爺さまでもない。
 婆、紅一点で会議に出る機会も多いが、男性中心社会の目標・美徳を否定する価値観を、自身も持っていると思う。家庭や子どものことは手際よく『片付け』、可能な限りの時間と精力を仕事に捧げ、職業的『上昇』志向を持ち続けて『指導的立場』で活躍する者が女性医師のロールモデル? 確かに、女性がこの社会に食い込むには、まずそのような超人が必要だった。
 だが、頑張る女性の成功物語の多くは、才能と根性と幸運の美談となり、『私にはちょっと......』という反応も自然に思える。
 女性が家庭の枠を超え社会参画する本当の意味は、超人を増やすことでなく、女性が自然体で振る舞い、家庭と社会の両方で、自分勝手だの無茶苦茶だのと言われながら、それぞれの価値観を根底から変えていくことにあるのかも知れない。あるべき未来図は不明なのだが。
 毎年、日本産婦人科医会で産科勤務医の勤務環境調査に携わる。夫が私のPCを覗(のぞ)き、「『産科医の〈夫の〉過酷な勤務環境に関する基調講演』はぜひ自分が」と言う。そんな仕事の要請もまだこないようだ。

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