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平成30年(2018年)12月20日(木) / 日医ニュース

メインテーマ「明日の勤務医の働き方を考える~西洋医学発祥の地長崎からの提言~」

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メインテーマ「明日の勤務医の働き方を考える~西洋医学発祥の地長崎からの提言~」

メインテーマ「明日の勤務医の働き方を考える~西洋医学発祥の地長崎からの提言~」

 平成30年度(第39回)全国医師会勤務医部会連絡協議会(日医主催、長崎県医師会担当)が11月3日(土・祝)、「明日の勤務医の働き方を考える~西洋医学発祥の地長崎からの提言~」をメインテーマとして、29年ぶりに長崎市内で開催された。図らずも平成最初と最後の本連絡協議会の開催地が長崎県となり、全国から353名が参加した。
 冒頭のあいさつで、横倉義武会長は、超高齢社会を迎えたわが国においては、人口の高齢化に伴い、顕在化するさまざまな課題に対して、医療界自ら変革に取り組み、未来に対する責任を果たしていく覚悟を示すことが重要であるとした上で、「医師の働き方改革も我々医療界が未来に対して責任を果たす大きなテーマの一つであると考えている。そのため、現在進められている議論に当たっては、医師のプロフェッショナルオートノミーをもって、地域医療の継続性を確保すると同時に、医療の質と安全を確保する観点からも、医師の健康に配慮することが重要である」と述べた。

特別講演Ⅰ「日本医師会の医療政策」

 横倉会長は、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、国民が住み慣れた地域で質の高い医療・介護を受けるためには、かかりつけ医を中心とした切れ目のない医療・介護を提供することが重要であるとして、日医かかりつけ医機能研修制度の仕組みについて言及。
 また、2040年に向けた社会保障のあり方については「政争の具にしてはならず、政府のみならず各政党も含めて社会全体で考えなければならない。しっかりとした協議の場をつくり、国民全体で合意の上、納得を得られる負担と給付を導き出すべきである」との考えを示した。

特別講演Ⅱ「長崎の医学史」

 増﨑英明長崎大学病院長は、日本に西洋医学が伝来した経緯や日本の医療に影響を与えた外国人について説明し、唯一、海外との窓口であった出島と医療の関わりについて話した。
 また、1857年に来崎して西洋医学教育をもたらしたオランダ海軍軍医ポンペが、1861年に建てた西洋式病院である「養生所」についても紹介した。

日本医師会勤務医委員会報告

 泉良平日医勤務医委員会委員長は、本委員会への会長諮問「勤務医の参画を促すための地域医師会活動について」に対して、平成30年5月に答申したことを説明。その内容は本委員会委員4名が日医の医師の働き方検討委員会に参画するとともに、フレームワークを活用した医師の働き方改革に関する調査結果を同委員会に報告したこと等であった。

ランチョンセミナー「医師のための働き方見直し~ワークライフバランスとダイバーシティの視点から~」

 ランチョンセミナーでは、伊東昌子長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター長・教授が、女性医師の視点から長崎大学病院で行っている働きがいのある職場づくりに向けた復職とリフレッシュトレーニングや、院内にワークライフバランス推進員を設置していることなどを紹介した。

シンポジウムⅠ「医師は労働者か?~応召(招)義務と時間外労働の狭間(はざま)で~」

 安里賀奈子厚生労働省労働基準局労働条件政策課医療労働企画官/医政局医療経営支援課医療勤務環境改善推進室長は、働き方改革の動向を説明。弁護士法人ふくざき法律事務所の福﨑博孝弁護士は、「現在、医師は労働者としてみなされているが、中世の西欧では医師や法曹も聖職者と同様にプロフェッショナルとして扱われていた」と述べた。
181220p2.jpg  岡留健一郎済生会福岡医療福祉センター総長/済生会福岡総合病院名誉院長は、医師の働き方改革について、「労働時間の上限と応招(召)義務の両方が成立するためには十分な議論が必要である」と指摘。片岡仁美岡山大学医療人材育成講座教授は、「女性医師の働き方を考えることが医師全体の働き方を考えることにつながり、働き方改革に直結する」との考えを示した。小野潔佐賀県医療センター好生館副事務部長は、労働基準局の監査を受けた後の院内の働き方改革への対応や、その経緯について事務方側からの意見を述べた。
 引き続き行われたフロアとの質疑応答では、医師の働き方に関する問題点や課題をめぐり、熱く活発な議論が交わされた。

シンポジウムⅡ「医療現場からの叫び」

 中道親昭長崎医療センター高度救命救急センター長は、一部の医師へ負担が偏らないよう、タスクシェア、ボリュームコントロールを意識した業務調整を院内で行っていることを紹介。八坂貴宏上五島病院長は、「医療の安全、質の向上、効率化のためには、職場における過重労働やメンタルヘルスへの対応など、医療界でも対策を打つべき時代になっている」とした。
 また、押淵徹平戸市民病院長は、日本一有人離島人口の多い長崎県での離島やへき地の過疎化の問題に触れ、働き方改革が実行される前に既に疲弊している医療現場の実情を報告した。
 ディスカッションではフロアより、離島・へき地医療について、今後更なる対策・検討が必要であるとの意見が出された。

ながさき宣言採択

 最後に、上谷雅孝長崎県医師会勤務医部会副部会長が「ながさき宣言」(別掲)を朗読し、満場一致で採択され、協議会は閉会となった。
 なお、翌4日(日)には、長崎県医師会の主催による「勤務医交流会」が開催された。98名が参加し、専門医制度、出産、育児など、多方面について若手医師らの活発な意見が交わされた。

 

ながさき宣言
 わが国の近代西洋医学は、1857年に来日したオランダ軍医ポンペ・ファン・メールデルフォールトによりこの長崎の地にもたらされた。ポンぺの「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものである」という言葉は長崎大学医学部建学の基本理念として今に伝えられている。この言葉に示されている医師としてのモラル、使命感がわが国の医療を支えてきたといっても過言ではないと思われる。
 しかし昨今の「働き方改革」においては、このような医師の思いが考慮されずに、労働者としての医師の側面のみが強調されて進められている。このままでは「働き方改革」によって救急医療現場の混乱、病院機能の低下などを来し、地域医療の崩壊を招くことが危惧される。我々は今回の改革において、勤務医が高いモチベーションを持ち続け、地域医療の発展に向けてこれまで以上に貢献できることを願って、次のとおり宣言する。

 一.長時間労働の是正は重要だが、その運用に関しては医師の特殊性に十分に配慮することを望む。
 一.働き方改革において研修医等の若手医師への教育が萎縮することのないこと、研修医等の若手医師の学習の機会を確保することを望む。
 一.勤務医の過重な勤務実態を広く周知することにより、国民全体の理解が深まることを期待する。
平成30年11月3日
全国医師会勤務医部会連絡協議会・長崎

 

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