勤務医のひろば
大学病院の救命救急センターに勤務して20年になるが、救急医にも働き方改革の波が押し寄せてきた。
全国で290施設が指定されている救命救急センターの診療体制は、主に重症症例を対象に初期診療から手術やIVR (Interventional Radiology:放射線診断技術の治療的応用)、集中治療、一般病棟の管理までを行う「救命救急型」と、一次~三次救急の初期診療を中心に対応する「北米ER型」に大別される。実際には、両者が混在する形で運営されている救命救急センターが多くを占めている。
どちらの診療体制であっても、幅広い知見と技量が求められるのが救急医である。救急現場への出動や災害医療、メディカルコントロールのような病院外の業務にも対応しなければならない。
そんな中で、今年は働き方改革関連法の成立によって医師の労働時間に注目が集まっている。日本救急医学会でも筆者を委員長とする「医師の働き方改革に関する特別委員会」が設置され、現在の救急医療を堅持しつつ、救急医の労働環境をどう改善していくかを議論している。
救急医は、増え続ける救急医療のニーズへの対応に加えて、自らの修練のためにも長い時間病院にいなければならない。その時間の全てが労働時間ではないし、on-the-job trainingも労働ではない。これらの時間を含めて法が適用されることになれば、地域の救急診療体制へ多大な影響をもたらし、やがては救急医療の質の低下につながることは疑いの余地がない。
「地域の救急医療を守るための診療や対外的活動、研鑽(けんさん)に対して、単純に法を守っていないと言われる不条理から救急医を守る」ことが日本救急医学会の役目であると考えている。厚生労働省の最終報告後には、この議論を更に深め、多くの救急医療施設に勤務する救急医のための方策を立てていきたい。