勤務医のひろば
卒後約10年消化器内科医として勤務しながら、臨床講座大学院に進み、米国留学を経て、現解剖学講座で基礎医学研究の道を歩んできた。研究者としてのスタートは遅きに失したが、再生医療研究・解剖学教育・内視鏡業務、そして一児の母親業とフル稼働する日々である。
近年、基礎医学研究に従事する人が減少している。特に、基礎系大学院のMD率は激減である。理由として、「大学に残る研修医が減り、大学院入学や研究医を目指す機会が減少したこと」「専門医志向の高まり」「研究者のポストが少ないこと」「研究費獲得のハードルが高く将来の不安が大きいこと」などが考えられる。
研究医不足の結果、基礎医学講座におけるMD教員の割合は減少の一途である。医学部では、正常・異常を含めて遺伝子・分子・細胞から個体レベルまでの人間の生物学的理解と、生命倫理・社会性の習得が求められる。これらは、実際に学部で経験する人体解剖や実診療に従事することで芽生える感覚的な部分も多く、教員自身がこれらの経験をもって教育に当たることの意義は大きいと考えられる。
また研究医不足は、橋渡し研究や臨床研究の減速にもつながりかねない。医学研究の活力低下や、医療産業・知財のグローバル競争にも敗績する懸念がある。
研究医減少の課題解決には、臨床研修制度や学会専門医制度、教育システムの見直し、研究費の増額等の総合的な施策が必要であるが、一大学教員として、今できることは何か。医学部生の基礎配属の指導に力を入れ、MD―PhDコースへの進学を後押ししたり、小・中・高校生の研究室体験実習を受け入れたり出張授業に出向いたりする活動を続けている。
微力ながら、将来の若手に研究の魅力を伝え続けていきたい。