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令和2年(2020年)2月20日(木) / 日医ニュース

「働き方改革」を多様な働き方を認めるきっかけに

勤務医のページ

2019年11月2日に開催された「第7回人間を中心とした医療国際会議」にて撮影

2019年11月2日に開催された「第7回人間を中心とした医療国際会議」にて撮影

 全国的に働き方改革が推進されるようになってから、医療界にもその波が徐々に押し寄せてきた。人口減少と高齢化が進む日本では、より質が高く効率的な医療提供体制を構築していく必要があるにもかかわらず、医師の地域偏在や診療科偏在、医師の過労死、女性医師のキャリア継続など課題は多い。そんな中で「働き方改革」は、どのような役割を担っていくのだろうか。

若手医師の働き方調査

 2019年11月2日、「第7回人間を中心とした医療国際会議」で若手医師の立場から意見を述べる機会を頂いた。全国60カ所の赤十字病院で勤務する卒後1~5年目の若手医師を対象に行ったアンケート調査結果(※)を基に、若手医師の勤務地、診療科、ワークライフバランスに対する考え方について発表した。
 一点目に、若手医師の75%は出身地で勤務を継続していることから、地域枠などの奨学金制度等も含め、地元出身医師の養成が地域偏在の解消に重要であることが分かった。一方、医師少数区域で勤務する若手医師は、ワークライフバランスが悪い点を一番の不満点として挙げていた。主体的に医師少数区域での勤務を選択する若手医師が増えるような、魅力的な勤務環境づくりにも並行して尽力していく必要があると考える。
 二点目に、若手医師は医学的興味(42%)と合わせてワークライフバランス(34%)を重視して、診療科を選んでいることが改めて明らかになった。実際、ワークライフバランスについて不満があったため、診療科を変更したような例も見られた。医師数が増えている診療科では、働き方を重視している医師が多い傾向も見受けられ、診療科偏在の解消には全ての科で働き方を改善することが求められると言えよう。
 三点目に働き方について、当直明けに帰宅できない、週休0日、時間外労働時間を過少申請せざるを得ないといった声が複数寄せられた。過酷な働き方を迫られる現状がある一方で、若手医師は適度に休養しながら効率良く働ける環境と正当な報酬を求めている。交代勤務の導入、当直明けの勤務規制、担当医制より当直医制の導入、タスクシフト等を検討することで、必要な学習レベルを保ちながらも、勤務環境を改善することは可能ではないかと考える。
 一つひとつは当たり前のような結果だが、改めて若手医師のみを対象にした全国規模の調査でこのような事実が確認され、発信する機会を頂いたことは大変貴重だった。若手医師が、十分な学びと自由なキャリア選択を担保されながら、持続可能な医療提供体制を築くために、今後の政策に今回の調査結果を始めとした若手医師の意見も反映されることを心から願っている。

文化改革から始める

 このように、医療政策においても欠かせない「医師の働き方改革」ではあるが、その本質は単なる労働時間管理ではなく、全ての医師が自分に合ったキャリアを継続できる制度、お互いの働き方を尊重できるような文化の醸成(じょうせい)にあるのではないかと考えている。やりがいがないままに時間外労働の数字に管理されるだけになっては本末転倒であろう。
 現場では長時間病院に滞在するような姿勢が賞賛される文化が根強い。もちろん、若手医師として十分なトレーニングを積むためには時間も必要だが、各医師の働き方を尊重し、オンとオフをはっきりさせて効率的に働く文化の醸成が、医師の健康を守るためにも、持続可能な医療提供体制を築くためにも、必要であると考える。
 また、働き方が多様化する現代では、子育てとキャリアの両立、研究と臨床の両立、他業界での活躍との両立など、フルタイムで臨床を行う以外の働き方も増えてきている。時代の変化に合わせて多様な働き方を受け入れるような懐が深い文化・制度が求められると言えよう。

働き方に関する世代間の意識差

 文化と制度を変えていく過程において最大の課題となるのは、世代間の意識差ではないだろうか。若手医師と指導医との間で意識が異なるということは多くの病院で見られるだろう。日本社会全体でワークライフバランスや仕事の効率化を重視するような風潮は強まってきている中、長時間労働に対する世代間の意識差の問題は避けて通ることができないと思われる。
 院内の働き方改革はもちろん、国レベルの政策においても、次世代の医療を担っていく若手世代の意見も踏まえて、全世代が互いに歩み寄りながら議論を進めることが不可欠である。

最後に

 「医師の働き方改革」は、私達が今後も自由にキャリアを築きながら医師としてスキルアップし、社会に貢献していけるような環境をつくっていく上で、鍵になるテーマだ。さまざまな状況の医療機関や地域がある中で一筋縄ではいかないが、徐々に文化・制度が変わっていくよう、あらゆる立場・世代を巻き込んだ包括的な取り組みに期待したい。
 多様な働き方に対して、寛容になる文化の醸成が医療界全体で進むことを願いつつ、今後も身の回りからできることで貢献できればと考える。
※中安杏奈,他.働き方に関する若手医師の意識調査.日赤医.2018;70(1):250.

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