勤務医のページ
今号では、本紙第1411号(6月20日号)に引き続き、前期の勤務医委員会(委員長:泉良平富山県医師会副会長)答申「勤務医の医師会入会への動機を喚起するための方策について―特に、若手勤務医を対象に―」の概要を紹介する。 |
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Ⅲ 若手医師入会のために何を成すべきか
2018年の日本の医師数は約32万7000人であるから、少なくとも15万人の医師は日医には入っておらず、恐らくそのほとんどが勤務医と思われる。
日医が厚生行政に大きく寄与していることなどはあまり知られておらず、また、医師会員の約半数が勤務医であることを知らない人も多い。このような現状では、国民から見て日医が全ての医師を代表する団体と認識されていないのも仕方がないと言わざるを得ない。日医がその政策を実現させるには、国民の声をバックにする必要があり、そのためには勤務医の入会を促進して組織率を上げ、国民に日医が真に日本の医師を代表する団体であると認めてもらうことが必要である。
では、なぜ15万人の勤務医は医師会に入ろうとしないのか?これまで、メリットがない、会費が高いなどのさまざまな理由が挙げられてきたが、多くは直ちに解決することは難しいものであった。
勤務医委員会では、大学を含めた若手勤務医の状況を知り、即効性のある対策をするために、全国の都道府県医師会に対して調査を行った。ここでは、その結果も踏まえた組織強化の方策について取り上げる。
1.医師会入退会手続きの簡略化とオンライン化
最も多く(87・2%)の都道府県医師会が、同一都道府県内の異動の際の手続きの簡略化を挙げた。世の中の多くの手続きがオンライン化されている現代において、書面で行う手続きはいかにも時代遅れで、とりわけ若手医師には受け入れがたいのは当然であろう。
この際、医師会入会に必要な医師免許の確認も含め、HPKIとしての医師資格証により諸手続きが完了するようにすれば、医師会員に医師資格証があまねく普及することにもなり、組織強化にもつながると考えられる。
2.大学院生の状況把握とサポート
大学院生は、社会人大学院生を除けば多くは無給で、アルバイトで生計を立てており、裕福ではない。しかしながら、その状況は多くの都道府県医師会ではほとんど把握されていないことが分かった。このような状況では、大学院生に対する都道府県医師会のサポートは期待できず、日医もこの問題に対する認識を改めるべきである。
大学院生は、これまで医師国民健康保険組合(医師国保)に入るために、医師会に入会する人が多かったが、医師国保の保険料の値上がりによって医師会費と合わせた経費が増加したため、市町村の国民健康保険に入会する人が増えてきた。
経済状況はむしろ初期研修医より厳しいとも言え、会費減免などの対象とすることにより、医師会への理解と入会が飛躍的に進む可能性がある。
3.若手医師の活躍の場の整備
現状では、若手医師が医師会に入会したとしても意見の表明の場がなく、その声を医師会の政策に反映させる方策はほとんどない。
勤務医のことが分かるのは現役の勤務医であり、勤務医の声を日医の政策に反映させることができるようになれば、医師会が自分達の味方という意識が向上し、入会も促進されるであろう。
同時に、勤務医が入会しやすいような会費設定とすることも必要である。
医師会が開業医のみでなく、勤務医をも同等に擁護してくれるということを示すことが組織強化のための根幹である。
4.大学医師会との連携
2006年8月に全国大学医師会連絡協議会が設立された。
今後、大学医師会の会員数を増やすために、日医との連携を深めていくとともに、『ドクタラーゼ』の確実な配付を通じた広報・周知による医学生への医師会の紹介とそれによる認知度の向上に努めていく中で、①大学院生はもとより、研修医で終わることなく専攻医以降も継続しやすい制度設計に見直す②次世代医師が同協議会へ指導医と共に参加することで、医師会や自分の将来を考える機会を提供する③その際に次世代医師の意見も吸い上げ、日医へ提言できる場をつくる④同協議会から大学や大学病院の魅力を発信するとともに、医師会は次世代医師を支援し、擁護する立場であることを周知する―ことが大切であると考える。
Ⅳ 働き方改革から若手医師への対応
1.医師の働き方改革概要
喫緊の課題である医師の働き方改革においては、救急医療への影響、外来診療の縮小などの病院機能の低下、高度医療・長時間手術・へき地医療への影響、研修時間と研修医教育の問題等が懸念され、医療の質や安全性を低下させない条件の整備が必要である。
もちろん、勤務医の健康を守ることが最も大切で、過労死は許容できない。当直明けの睡眠不足の医師が診療や手術執刀せざるを得ない現状は、医療安全の観点からも避けなければならない。
医師は一生学習するから医師であるので、自己研鑽と時間外労働に基準を示し、文書にて明示、院内に周知していかなければならない。医師の業務を他職種と分業するタスクシェアリング、タスクシフティング、一人主治医制から複数主治医制・グループ制への転換を推進することで、応招義務は個人としてではなく、病院全体として対応できることになる。
勤務環境改善にはICTの導入、その他の設備投資を積極的に行うことが有効である。そして、医師の自己犠牲を前提に成立している医療体制はおかしいと思える社会に向けて啓発を進め、医師の健康確保と地域医療体制の維持の両立を要として働き方改革を進めていく必要がある。
地域偏在、診療科偏在対策を含む医師確保計画、地域医療構想、医師の働き方改革は、その一つひとつを確実に、かつ、同時に進めていく必要がある。タスクシェアリング、タスクシフティング、国民の医療のかかり方などを全てパッケージで実施していかなければならない。
2.若手医師の働き方調査
日医主催の「第7回人間を中心とした医療国際会議」で、全国60カ所の赤十字病院で勤務する卒後1~5年目の若手医師を対象に行ったアンケート調査結果が発表された。
地域枠などの奨学金制度等も含め、地元出身医師の養成が地域偏在の解消に重要であること、医師少数区域で勤務する若手医師の不満のトップはワークライフバランスであり、診療科の選択・変更の重要な要因にもなっていることから、ワークライフバランス改善にはシフト勤務制の導入と実施、当直明けの勤務規制、担当医制より当直医制の導入、タスクシフト等を検討することで、必要な学習レベルを保ちながらも、勤務環境を改善することは可能ではないかとの結果であった。
若手医師が、十分な学びと自由なキャリア選択を担保されながら、持続可能な医療提供体制を築くために、日医として今後の政策提案に若手医師の意見を反映していけるように取り組む必要がある。
3.医師の働き方改革に関する課題
働き方改革は、医師の意識改革の契機でもある。管理者が意識改革を行い、柔軟な勤務制度(短時間正社員制度など)を含む制度改革、トップマネジメントである組織の改革につなげていかなければならない。
日本社会全体でワークライフバランスや仕事の効率化を重視するような風潮が強まってきている中、長時間労働に対する世代間の意識差の問題は避けて通ることができない。
若手医師と指導医との間で意識が異なるということは、多くの病院で感じ取ることがある。指導医は、自分が経験してきた価値観を若手医師に押し付けるのではなく、次世代の医療を担っていく若手世代の意見も踏まえて、全世代が互いに歩み寄りながら議論を進めることが不可欠であるという認識の下で、現在の地域医療提供体制の緩やかな再構築に向けて、不断の取り組みを行わなければならない。
多様な働き方に対して寛容な文化の醸成が医療界全体で進み、働きやすく、かつ、働きがいのある職場環境と質の高い医療提供体制、並びにバーンアウトすることなく性別、年齢にかかわらず持続可能な勤務体制を築き、医師も健康で豊かな人生を送れることを目指すのが肝要であると考える。