南海トラフ大震災を想定した防災訓練(災害時情報通信訓練)が2月10日、スカパーJSAT並びに宇宙技術開発、NTTドコモ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの協力により、WEB会議システムを用いて開催された。
今回の訓練は、2021年2月10日(水・平日)午後9時過ぎに駿河湾沖でマグニチュード9・0の巨大地震が発生したとの想定の下に行われたもので、日本医師会に災害対策本部を設置し、衛星通信等を用いて静岡県の被害状況を確認するとともに、JMATの派遣等を検討した。
冒頭、あいさつした中川俊男会長は、「今年は東日本大震災の発災から10年に当たるが、日本医師会は震災から得られた大切な教訓を風化させることのないよう、さまざまな取り組みをしてきた」とした上で、新型コロナウイルス感染症の対応に追われる中にあっても、いつ起こるか分からない大規模な地震災害への備えも重要であることを強調。被災地の医師会が災害発生直後から対応し、また、全国から支援に駆け付けるためには、ICTを活用した情報共有が不可欠であるとして、今回の訓練の成果に期待を寄せた。
紀平幸一静岡県医師会長のあいさつに続いて、長島公之常任理事が防災訓練開始を宣言。被害想定について説明した上で、災害発生時から3カ月目までの日本医師会の対応等に関する訓練が時系列のシナリオに沿って行われた(別掲参照)。
訓練後の議論においては、DMATとJMATが連携し、日頃から顔が見える関係をつくる大切さが強調された他、「被災地JMAT」を強化するためにも、行政が備蓄している薬剤や医療資器材の提供、迅速な仮設診療所の設営を求める意見などが出された。
その後、厚生労働省と海上保安庁担当者から講評が述べられ、猪口雄二副会長が防災訓練に協力頂いた関係者に感謝の意を示すとともに、「新型コロナの発生により、自然災害だけではなく、被災地での感染症の拡大とどのように対峙していくかということを見つめ直す必要が出てきた。日本医師会の救急災害医療対策委員会でも検討を進めていく」と総括し、訓練は終了となった。
発災1日目〔2月10日(水)〕 午後4時に気象庁が「南海トラフ巨大地震関連情報」を、静岡、愛知、三重の各県を対象として臨時発信したことを受け、日本医師会では「地震災害警戒本部」を設置。地震発生に備え、各県医師会に警戒を呼び掛けるとともに、日本医師会館の安全対策や衛星通信を点検した。 午後9時過ぎの地震発生に伴い、「地震災害警戒本部」を「災害対策本部」に移行し、日本医師会の担当課に事務局情報共有システムを用いた各都道府県医師会からの情報収集を命じた。 発災2日目〔2月11日(木・祝)〕 通常のインターネット環境に支障が出ているため、「スカパーJSAT」の衛星を用いて、各都道府県医師会と連絡を取り、対応を協議。加陽直実静岡県医師会理事からは、同県における詳細な被害状況と対応についての報告がなされた。 更に、衛星携帯電話「ワイドスターⅡ」を用いて、杉浦誠熱海市医師会救急・災害医療担当理事、静岡市静岡医師会事務局より、被害状況の報告を受け、日本医師会災害対策本部では、全都道府県医師会にJMATの編成・待機を、東海地方や近接の都府県医師会に「先遣JMAT」の派遣準備を要請。 また、被災県医師会には「被災地JMAT」を派遣した場合は、日本医師会へ登録申請をするよう求めた。 発災3日目〔2月12日(金)〕 「先遣JMAT」の報告、静岡県医師会、静岡市静岡医師会、熱海市医師会との協議や、地域医療情報システム(JMAP)に取り込んだ津波想定被害データの検討の結果、JMATの派遣を決定し、携行医薬品や資器材のリストについて説明。静岡県医師会の「先遣JMAT」を「統括JMAT」とし、中部医師会ブロックからは、被災県でありつつも、医療資源が豊富な愛知県医師会に対応を要請した。 発災4日目〔2月13日(土)〕 日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)より、JMAT活動への参加要請があり、JRATの各都道府県支部に、都道府県医師会が編成するJMATの一員としての参加を依頼した。 発災1週間経過〔2月17日(水)〕 現地では、DMATの撤収スケジュールが議論されているが、依然として数10万人に及ぶ避難者がおり、J―SPEEDの状況を見てもかなりの医療支援が必要と判断される。一方で、支援ニーズが急速に縮小している地域もあることから、近畿、中国四国、九州ブロックの各府県医師会のJMAT派遣を、静岡県に集中させることとした。愛知、三重両県への支援は、中部ブロックに任せ、手厚い支援が必要な地域を見極めながら、派遣を進めていくこととなった。 発災12日目〔2月22日(月)〕 これまで「統括JMAT」は、宮城県、東京都、大阪府、兵庫県医師会が担ってきたが、25日以降は、中部ブロックは富山県医師会、他の地域からは、北海道、茨城県、岡山県、高知県、福岡県、沖縄県医師会に依頼する。 JMATの活動が本格化する一方、DMATの撤収が始まる。 発災4週経過〔3月10日(水)〕 全国からの「支援JMAT」を大量に被災地に派遣しているが、医療支援ニーズが、災害対応から、通常診療に移行してきた。DMATは既に撤収し、日本災害医学会の「災害医療コーディネートサポートチーム」が、JMATとして現地活動を本格化。被災県医師会、「統括JMAT」との連携もできており、一部地域では、地元の医師会がコーディネート業務を引き継いでいる。 発災8週経過〔4月7日(水)〕 避難勧告の解除もあり、現地の医療ニーズが急低下し、被災県医師会による「被災地JMAT」活動も始まったことから、静岡県医師会と「統括JMAT」とで協議し、今週で県外からの「統括JMAT」の撤収を決めた。 発災12週経過〔5月6日(木)〕 避難所の統廃合により医療ニーズが急速に縮小したことから、静岡県医師会、「静岡県統括JMAT」と協議の上、5月14日を目途に、外部からのチームである「支援JMAT」の活動を終了し、交替で医師を被災地に派遣する「JMATⅡ」のフェイズへ移行。 発災13週経過〔5月12日(水)〕 ゴールデンウイーク中、多数のボランティアが静岡県に集まったため、複数の避難所、被災した病院や介護施設で、新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生。日本災害医学会との間で、協定に基づくJMATとしての医療チームの派遣を至急調整し、クラスター発生施設での指揮系統の確立、ゾーニング、PPEの着脱指導を実施してもらい、早期収束を図る。 発災17週経過〔6月9日(水)〕 被災地の新型コロナ感染拡大は沈静化。国会では、災害復旧支援の特別立法が成立し、補正予算も組まれ、厚生労働省の医療施設等復旧補助、経済産業省のなりわい再建補助金の手続きも進められる。 日本医師会には多くの義援金が寄せられ、来月、被災地の県医師会に第一弾の配賦を行う予定となった。 今後は、本格的に被災地の地域医療と地域包括ケアシステムの復興を行うことになっている。 |