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令和3年(2021年)8月20日(金) / 日医ニュース

ウィズコロナ・アフターコロナ時代の病院

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ウィズコロナ・アフターコロナ時代の病院

ウィズコロナ・アフターコロナ時代の病院

 当院は現在、重点医療機関として新型コロナウイルス感染症患者を受け入れながら、地域医療構想、医師の働き方改革への対応と、地方独立行政法人への移行の準備を進めている。
 今回、歴史を振り返りながら、ウィズコロナ・アフターコロナ時代の病院のあり方を考えてみた。

医学の歴史

 医学は人類の誕生から現在にかけて、社会・政治・経済の動向、科学・技術の進歩、疾病構造・ニーズ・患者の意識の変化などと相まって緩やかに、時に劇的に変化してきた。
 古代・中世の医学から科学的医学への進歩においては、16世紀の解剖学の勃興、17世紀の血液循環の発見、18世紀の病理解剖学の萌芽(ほうが)、19世紀の細胞病理学の展開の影響が大きい。外科では19世紀半ばの全身麻酔、消毒法の開発の意義が大きい。
 医学の近代化は、14世紀から16世紀のルネサンスを転機として始まった。ルネサンスは古代ギリシャ・ローマの文化を復興する運動で、併せて革新の姿勢を持ち、多くの天才が出現した。
 医学ではヴェザリウスの名が挙げられる。ヴェザリウスは人体の中に真実を求め、教育のために自ら解剖してそれを人々に示し、更に、写実的で芸術的に水準の高い解剖学書『ファブリカ』を出版することで、新しい医学をもたらした。この時期に印刷技術が進歩し、書物の役割が情報の貯蔵から伝達手段へと変化したことが大きく影響した。
 解剖学が内への探求とすれば、15世紀に始まった大規模な航路開拓は外への挑戦であった。これにより交易ネットワークが拡大し、グローバル化がもたらされた。
 16世紀に世界一周航海が行われ、地球が球体であること、太平洋の広さ、西回りに一周すると日付が1日遅れることが判明し、地球観が大きく変わった。宇宙観もコペルニクスの地動説により180度変わった。この時期に理髪外科医パレが銃創の治療法を一変させた。
 17世紀に自然科学が発達し、医学に自然科学的な方法が導入されて血液循環が証明された。18世紀は理性の時代と呼ばれ、後半に産業革命が起こり、ワクチンが開発された。
 19世紀以降の医学は、科学的探究を発展させて基礎医学、臨床医学が発展し、19世紀末に病原菌、X線が発見された。
 20世紀は科学が著しく発展し、人類の行動範囲が深海や宇宙へと拡大した。医学では抗がん剤、抗生物質、CT、MRIが開発され、21世紀の現在、医療のIT化とゲノム医療、再生医療の実用化が進められている。外科は19世紀後半に急速に発展し、20世紀後半にQOLを重視した手術、臓器移植術、内視鏡手術、マイクロサージャリー、ロボット支援手術が導入された。
 人類は長い歴史の中でパラダイムシフトを何度も経験してきたが、それをたどれるのは記録があるからである。一方で、記録が失われたり、不正確である場合は、正しく伝承されない。医学のルネサンスは、長年の間に俗化したヒポクラテスやガレノスの医学を原典から学ぶことで、新たな医学を作り出す運動であった。言うなれば、エビデンスの批判的吟味を行い、新たな標準を作り出したと言える。

当院の歴史

 当院の歴史は、『荏原伝染病院誌』と『東京都立荏原病院100周年記念』に詳しい。これらによると、当院は明治31年に隔離病舎として世田谷に設立され、昭和9年に現在地に移転し、昭和33年に総合病院として発足したとある。
 その後、増加しつつあった輸入感染症に対応するために昭和47年に検疫病棟を開設し、痘瘡(とうそう)患者と接触者、痘瘡疑似患者、ラッサ熱接触者、コレラ菌保有者を隔離したことが記録されている。
 また、昭和50年に開催された沖縄海洋博覧会に防疫援助として医師を派遣している。なお、昭和49年に隔離した痘瘡患者は日本で最後の痘瘡患者とされ、ラッサ熱接触者の隔離は昭和51年に行われている。
 このラッサ熱接触者の隔離を契機に、国はラッサ熱を指定伝染病とし、都は高度安全病棟の設置を計画し、医師、看護師の海外派遣研修を行っている。この高度安全病棟は、独立棟として昭和54年に竣工し、昭和62年に帰国後に発症したラッサ熱患者を受け入れたが、それ以外の運用実績はなく、平成10年に取り壊されている。
 現病院は平成6年に竣工し、平成9年の前室付特殊伝染病室の完成を経て、平成11年に第1種及び第2種感染症指定医療機関に指定されている。現在、一般診療を大幅に縮小しながら、職員が一丸となって新型コロナウイルス感染症患者の受け入れを行っている(図)

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今後

 当院の歴史は120年程度であるが、それは医学の歴史に似て、社会のニーズと医学の進歩に対応したものであった。
 今、全国の医療機関は新型コロナウイルス感染症の荒波にもまれており、ニューノーマルの確立が求められている。そこにはコペルニクス的転回も必要かも知れない。
 当院においては、後に荏原のルネサンスと呼ばれるよう、これまでの常識にとらわれることなく、大胆に、大きな夢を抱きながらも慎重に、まずは地域における当院の役割を再認識し、革新の姿勢を持ちながら、直面する課題の解決に取り組みたい。

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