令和3年度全国医師会勤務医部会連絡協議会が日本医師会主催、京都府医師会の担当により、10月2日に開催された。本来ならば、令和2年度に開催予定であったが、新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)で1年の延期が決まり、京都府医師会館と全国の都道府県医師会とをオンラインでつなぐ形式で行った。
今回のメインテーマについては、京都府医師会理事会並びに同勤務医部会で協議を重ね、「勤務医とともに歩む医師会の覚悟~医師会が守るべきもの、変えるべきもの~」とした。
昨今、日本医師会は組織力の強化を大きな目標に掲げており、そのための方策として勤務医の医師会入会を促進することの重要性を訴えている。その仕掛けの一つとして打ち出されたのが臨床研修医の入会無料化であるが、一定の効果が見られるものの、研修修了後の退会への対応が、大きな課題となっている。後期研修医、専攻医の中には、上級医から医師会活動に参画することへの理解が得られず、退会していく事例も見られる。
こうした課題にも着眼して、医師会の会員数という「数」の問題でなく、医師会活動の「質」の問題として、今後、医師の代表として立ち居振る舞うべき医師会が、勤務医と共に歩むためにどのような覚悟が必要かということをメインテーマに設定した。
関係者が集まって行う例年の協議会のように、終日にわたっての開催は不可能であるため、三つの特別講演は全て事前に収録し、オンデマンドで視聴できる形にした。
当日は、あらかじめ収録した中川俊男会長並びに松井道宣京都府医師会長のあいさつに続き、二つのシンポジウムの講演を配信。シンポジストには来館してもらい、都道府県医師会、フロアとのディスカッションに主眼を置いた。
シンポジウムⅠ「専門医制度の行方~理想と現実、目的と結果の齟齬(そご)~」
まず、座長を務めた小野晋司京都府医師会副会長は、専門医制度に携わるステークホルダーの変遷として、さまざまな立場から見た「専門医制度」について述べ、専門医制度の根幹を支える医療現場の多様な声(専攻医、専門医及び研修医療機関など)の反映の必要性を訴えるとともに、日本専門医機構・各学会が育成した「専門医」の"質の評価"を確実に行うこと、また「専門医制度」の活用のためにかかりつけ医との密接な連携の必要性を提示した。
その後、シンポジストからは、市中急性期病院や医師不足地域の地域中核病院、女性医師や専門医教育者から見た「専門医制度」が取り上げられ、問題が提起された。
講演の後には、今村聡副会長や武田俊彦元厚生労働省医政局長よりコメントがあり、その後ディスカッションが行われた。
その中では、シーリング(地域貢献率)適応は、真の医師不足地域への医師供給を図るには、より広い視野に立った対応が望まれることや、若手の教育だけではなく医師が一生学び続け、知識や技術をアップデートし続けられる制度設計を期待する声が上がった他、国民の関心は良い医療を支える「専門医教育の質」にあり、その本質は妥当で信頼性のある「学習者(専攻医)の評価」にある等の意見があった。
また、京都府医師会からは、専門医のシーリングがなされる中で、「京都で良医を育て、全国に送り出す」ことをスローガンとしているとして、シンポジウムⅡの内容につながる見解も示された。
シンポジウムⅡ「研修医、若手医師に対する医師会の本気度を問う」
冒頭、座長を務めた加藤則人京都府医師会理事が、京都府医師会が展開している研修医事業について触れ、全国でも同様の取り組みが進むことで、研修医のボトムアップが期待されるとの提言が述べられた。
その後は、京都府医師会の研修医事業が歩んできた「道のり」について紹介され、山あり谷あり、紆余曲折を経て、現在の研修医事業が展開されていることが示されるとともに、実際の取り組みの紹介、そして、その中で出てきた課題についてどのように向き合い乗り越えてきたかについて言及があった。
また、若手医師、女性医師のキャリアパスに医師会ができること、やるべきこととして、①若手、女性を組織に組み込む(スポンサーシップ)②心理的安全性を担保する③人の育成を大切にする(=「失敗からの学習」を重視)―ことの重要性が示された。
医師会としては、若手医師、優秀な若手指導医、それらをつなぐ場を提供する医師会、サポートする医師会に変わることが必要と考えられる。
シンポジストの講演に続いて、橋本省常任理事よりコメントが述べられた後、ディスカッションが行われた。
短編映画「臨床研修屋根瓦塾KYOTO」
本来であれば、2日目に勤務医交流会を開催し、京都府医師会で実際に行っている「臨床研修屋根瓦塾KYOTO」を体験してもらう予定であったが、膝を突き合わせての取り組みが叶(かな)わなかったため、松竹撮影所の協力の下、実際に「臨床研修屋根瓦塾KYOTO」に携わっている若手医師自らがカメラの前に立ち、同事業について説明するために製作した15分程度の短編映画をオンラインで配信した。
「臨床研修屋根瓦塾KYOTO」も現在の形態に至るまでに、険しい道のりを歩んできた。構想当初は、臨床研修指定病院によってはなかなか理解が得られず、時には京都府医師会の担当理事が病院に赴き、趣旨を説明する場面もあった。今の研修医事業があるのはこういった地道な努力と、医師会と臨床研修指定病院のつながりのみならず、地域行政との連携が不可欠であることが強く認識されたことが、地域医療の水準を絶えず維持向上させることにつながり、京都府行政の積極的な参画につながっている。
研修医向けの取り組みに興味をおもちの都道府県医師会におかれては、ぜひとも京都府医師会にお問い合わせ頂きたい。
そして、これらの企画終了後に、参加者に対して「きょうと宣言」(別掲)を提案し、全会一致で採択されて盛況裡に幕を閉じた。この場を借りて、参加者、関係者の皆様に心より御礼申し上げる次第である。
きょうと宣言
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、厳しい就労環境における勤務医の献身的な努力により辛うじて支えられてきた医療提供体制、とりわけ入院医療体制崩壊の懸念を現実のものとした。今後、一人一人の勤務医が様々な立場、多様な役割を担っている他の勤務医や診療所医師との間で相互の理解と密接な連携を深めていかなければ、多くの課題を抱えるわが国の医療状況はさらに深刻化することが危惧される。コロナ禍のもとにおいても勤務医をめぐる課題は変わることはなく、先送りすることは許されない。確実に少子化・高齢化が進む中で、中長期的に医師の需給を調整する必要性が指摘される一方、医師の地域偏在・診療科偏在は喫緊の課題として対応が迫られている。 時間外労働の上限規制、専門医制度など勤務医が直接大きな影響を受ける制度の変更が、地域医療構想や医師の偏在対策等の政策課題を実現するための手段として議論が進められている。いずれの制度も本来、勤務医が最大の当事者であるが、勤務医、特に最も大きな影響を受ける若手医師からの希望や意見を十分集約・反映した上で協議・検討が進められる状況からはほど遠い。 このような状況に鑑み、地域医療の確保と発展に勤務医が専心できるよう、次の通り宣言する。 一、新興感染症にも適切に対応できる医療提供体制の再構築を図る 一、絶対的な医師不足の存在する地域ならびに診療科における確実な医師の充足により勤務医の就労環境の改善を図る 一、働き方改革、専門医制度の議論においては当事者としての勤務医の意見を尊重する 一、医師会組織における勤務医の主体的な活動が可能となる環境整備を図る 令和3年10月2日
全国医師会勤務医部会連絡協議会・京都 |