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令和3年(2021年)12月20日(月) / 日医ニュース

「COVID-19専門病院の勤務医の立場から~COVID-19診療のジレンマとバーンアウト」

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「COVID-19専門病院の勤務医の立場から~COVID-19診療のジレンマとバーンアウト」

「COVID-19専門病院の勤務医の立場から~COVID-19診療のジレンマとバーンアウト」

 私の勤務する荏原病院は、2020年1月末に武漢からの帰国チャーター便を皮切りに現在に至るまで、約3000名のCOVID―19感染症患者を受け入れてきた。
 その後、2021年初頭から10月までは初診や救急患者、入院患者の受け入れを大幅に制限し、「コロナ専門病院」として診療に注力していた。
 私達耳鼻咽喉科医も2020年5月からコロナ診療班として、病棟主治医と共に重症患者の気管切開、人工呼吸器離脱後の嚥下障害などの診療を行ってきた。その経験から、「コロナ専門病院」の勤務医が直面したジレンマとバーンアウトのリスクについてお伝えしたい。

1.COVID―19診療のジレンマ

 COVID―19診療の開始に当たって直面したのが、患者さんとの信頼関係の構築である。
 一般診療の場合、紹介受診であっても、患者さんの能動的な選択を前提にその病院を受診する。この時点で「信頼関係の構築」の第一段階ができ上がっている。更に、多職種や家族が参加して個々の病態や社会背景を考慮しながら、治療方針や急変時対応などを決めていくのが当たり前の光景である。
 一方、COVID―19診療では、都道府県調整本部や保健所からの指示により入院してきた患者さんに対し、医療の逼迫(ひっぱく)状況によっては希望がかなわない可能性の説明も含めて、ゼロから信頼関係を構築せねばならない。ご家族への説明においても、遠方在住や、濃厚接触者であるために、電話で急変時の対応を決定せざるを得ない場面も多い。本来、フルコースでの対応を専門とする麻酔科や、機能改善を主目的とする整形外科などの若手医師からは、このような形で入院時に急変時対応を迫られる場面への苦悩の声が多く聞かれた。
 また、COVID―19軽症・中等症者の治療は、クリニカルパスにより標準化されており、専門的な知識や技術を要する場面は多くない。専門診療科の医師から見えるCOVID―19診療の景色はモノトーンであり、診療へのモチベーションの維持が難しい。
 コロナ専門病院化に舵を切った際に私達が直面した大きなジレンマは、自分達の専門診療を休止しなければならないことであった。責任をもって治療に当たっていた患者さんを中途で転院させる事態は、患者さんとの信頼関係を自ら絶つ、大変つらい経験である。
 更に、手術や専門診療を休止したことにより専門研修ができないという理由から、複数の診療科で大学からの若手の専攻医派遣が見合わせとなり、また、専門診療ができる場を求めての退職も複数生じた。地域中核病院として、連携を図ってきた医療機関からの受け入れも停止せざるを得ず、診療科がこれまで立ててきた経営戦略も白紙となっている。

2.コロナ専門病院の勤務医におけるバーンアウトについて

 このような状況下で危惧されるのが、「バーンアウト」である。
 バーンアウトとは、「長期間にわたり援助活動を行う過程で、精神活動力を過度に要求されたために起こる心身の消耗と枯渇を主とする症候群」(Maslach)と定義される。仕事を通じて、情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態である「情緒的消耗感」が生じた結果、クライアントに対する無情で非人間的な対応をする「脱人格化」が生じ、最終的には「個人的達成感の低下」につながるとされる。先行研究によれば、医療職のバーンアウトは離職や医療の質の低下をもたらす。
 我々は、東京都の「コロナ専門病院」3施設(広尾病院・豊島病院・荏原病院)に勤務する医師を対象に、感染の第3波が終わった2021年3月に日本版バーンアウト症候群尺度(JBS)を用いた調査を行った。
 その結果、「現況が有意義であるか」という設問に対しては、50%の医師が「有意義ではない」と回答している。COVID―19流行以前に行われた脳神経内科医を対象とした調査と比し、JBSはいずれも高い傾向を示した。特に女性医師に情緒的消耗感が高く、また、若い医師ほど情緒的消耗感・脱人格化・個人的達成感の低下が生じていることが明らかとなった。
 その他、自由記述において、外科系診療科からは専門性に関する懸念、内科系診療科からは長期化への不安が多く述べられていた(図)

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3.今後に向けて

 現在、当院でも一般診療を再開しているが、これまで医師も看護師も週・月単位での病棟異動を繰り返してきたことにより、専門診療体制を一から構築し直さねばならない状況にあり、専門医療は高度なチーム医療の上に成り立つことを再確認している。
 COVID―19流行下で、地域での医療提供体制の維持は、即応できる医療人材なしには成立しないことが誰の目にも明らかとなっている。地域中核病院の長期にわたるコロナ専門病院への転用により、専門外の領域で勤務する医療者がバーンアウトのリスクにさらされていることは、離職や医療の質の低下を招き、更に、長期的には地域医療全体へ与える悪影響が懸念される。
 今後も起こり得る新興感染症のパンデミックに備え、医療者のバーンアウトの観点からも検証が必要であろう。

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