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令和4年(2022年)1月20日(木) / 日医ニュース

瀬戸内海巡回診療船 済生丸をご存知ですか

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瀬戸内海巡回診療船 済生丸をご存知ですか

瀬戸内海巡回診療船 済生丸をご存知ですか

国内唯一の診療船

 皆さんは、瀬戸内海巡回診療船「済生丸(さいせいまる)」をご存じだろうか。「済生丸」は、瀬戸内海の島嶼(とうしょ)部を巡回し健診事業を中心に診療を行っている、日本で唯一の診療船である。
 元々、昭和36年5月、済生会創立50周年記念事業として、「瀬戸内海島嶼部の医療に恵まれない人々が安心して暮らせるよう医療奉仕につとめる」を理念として計画され、昭和37年12月に運行を開始し、今年で60年の歴史を重ねる。
 平成23年からは、済生会本部事業から支部岡山・広島・香川・愛媛各県済生会の共同事業となり、岡山、広島、香川、愛媛各県の瀬戸内海に浮かぶ60余の島々を巡回して診療・健診に当たっている。
 この事業は、へき地医療としてそれぞれの県の医療計画にも組み込まれ、県市町行政と協働した事業となっている。現在、船内には心電図等の生理検査、超音波検査装置、単純X線、透視装置等の医療機器が装備され、「海を渡る病院」として、乳がんや胃がん、肺がん、子宮がんなどのがん検診も実施している。

活動の内容と実績

220120k2.jpg コロナ禍前の令和元年の実績として、岡山県10島、広島県12島、香川県18島、愛媛県20島の計60島で、延べ169島、診療日154日、延べ7115人の受診者に健診事業を行っている。各県市町行政と協働して診療する島や地区を選定し、地域の保健師の協力を得ながら実施している。
 例えば、筆者の香川県には月のうち1週間程度船が配船され、香川県の病院スタッフ、医師、看護師、放射線技師、検査技師、事務員(診療の内容により薬剤師やPTも参加)のチーム(担当は当番制)が乗船し、香川県の島嶼部を巡回診療し、その翌週には岡山県に船が向かい、岡山県の病院スタッフが乗り込んで岡山県の島嶼部を巡回する、というように4県で運行している。
 自院や地元大学の研修医も実際の診療に参加し、更に、医学生や看護学生等の地域医療実習として活用されており、将来の医療を担う人材が地域医療やへき地医療について考える機会になればと思っている。
 また、日本で唯一の診療船として、国や全国のいろいろな自治体関係者やメディア関係者等も頻繁に見学や取材に同乗する。基本的には当日、船は港に係留し、事前に地域の保健師が地域住民に周知して受診希望を募っておき、予定受診者や当日受診者が船を訪れ、船内で診療を行っている。
 更に、島や地区によっては公民館等を会場としての健診や健康教室など、各県で工夫をしながら活動している。

災害援助

 「済生丸」は平成7年の阪神・淡路大震災の際に、災害救助船として緊急援助物資を積んで駆け付け、済生会の医師や看護師等がチームを組んで41日間にわたり救援活動をした。現在の船は1日3トンの海水を真水に変えられる造水装置を備えており、今後発生が危惧される南海トラフ地震等において被災地に医療班や物資などを届ける災害救援活動での役割も視野に入れている。

島嶼部医療の課題と今後の取り組み

220120k3.jpg 「離島は日本のへき地課題先進地」とも言われ、へき地諸課題が濃縮・先行している。
 現在、瀬戸内海島嶼部では住民の高齢化と人口の減少が急速に進行している。香川県には24の有人離島があり、香川県の現在の人口は10年前の97%であるが、離島では85%であり、住人が100人以下の島が11ある。
 また、県の高齢化率は29%であるが、離島全体では36%で、高齢化率50%以上の島が13、70%以上の島が7ある。
 更に、島外の施設に入院・入所等している住民もいるため、住民基本台帳上の人口よりも、実際の人口は更に20~30%少なく、空き家の増加や地域活動の停滞・低下が目立つ。また、港湾設備の老朽化や破損が、船の係留の支障となっている。
 そうした環境変化で、「済生丸」の健診受診者も減少傾向にある。これまで行政と協力して、島の住民にアンケート調査を実施したところ、島や地域での違いはあるが、半数近くの島民は島での生活に満足し、住み慣れた場所で長く暮らしたいと互助の精神で助け合って暮らしている。普段は島外にかかりつけ医をもっているが、通院に片道2時間程度掛かる場合も少なくない。また、約7割の島民が夜間時間外等の救急医療体制に不安を感じていた。
 医療環境としては、小豆島(しょうどしま)のような比較的大きな島では県立病院もあり、医療も完結し得る環境にあるものの、その他の島では診療所はあるが医師は常駐せず、診療日数や時間も制限されている島が多く、夜間・時間外の診療体制の整備が焦眉(しょうび)の課題である。
 そういった不安から、自助のためにも健診受診率は7割を超え、疾病の予防に対する意識は高い。その点で、健診事業は重要であるが、人口の減少や高齢化が著しい島嶼部で、引き続き住民の健康と命を守っていくためには、その効率化や介護・福祉の総合的提供、事業への財政的支援が必要で、この事業も変革が求められている。
 現在、ITネットワークを活用して、「済生丸」の健診結果を島の診療所の医師や地域行政と共有する試みや、現地の保健師と協働した遠隔での健診等も計画中で、こうした新しい技術の導入が必要と感じている。

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