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令和5年(2023年)3月20日(月) / 日医ニュース

地域医療の現況~北海道における医療の偏在から~

勤務医のページ

地域医療の現況~北海道における医療の偏在から~

地域医療の現況~北海道における医療の偏在から~

はじめに

 北海道は広い。総面積はわが国の22%を占めており、関東・中国・四国の1都14県がすっぽり収まる。人口は約522万人で、人口10万人当たりの医療施設に従事する医師数は、全国平均256・6人をわずかに下回り全国27位である(2020年)。ランキングとしてはそこそこであろうが、広大な土地に住民も医師も偏在していることから、地域ごとに丁寧な分析をしなければ、医療逼迫(ひっぱく)についての判断を誤ることとなる。
 加えて、北海道は勤務医の割合が79・24%と全国一高く、47位の和歌山県の67・92%とは大きな開きがあることから、勤務医の動向や勤務環境は地域医療に大きな影響を与えることになる。
 本稿では令和3年度のアンケート調査を基に、北海道医師会勤務医部会がまとめた「勤務医の環境改善と地域医療を守るために」を参考として、北海道が抱える医療の偏在問題について述べる。

医師需給の適正化

 平成20年度から地域枠等を中心に医学部定員が増員されたことにより、全国レベルで医師数は毎年3500〜4000人ずつ増加してきた。現行のままであれば、令和11年頃には需給が均衡し、その後は人口減少が続くとすると医師過剰の局面も予想されることから、厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」からは、将来的な減員に向けて医学部定員の見直しの必要性も示されている。
 しかし、全国知事会は医師・診療科の偏在が解消される見込みが立たない現状とパンデミック発生時の医療提供体制を踏まえ、むしろ医師の絶対数を増やし、現在の定員増を臨時的ではなく、恒久的な措置とするよう求めており、"偏在"対策なくして"需給"問題は語れないことが分かる。
 更には、指導医・専攻医にも偏在があり、それぞれ難しい問題を抱えている。

医師偏在指標

 2019年4月に施行された「医療法及び医師法の一部を改正する法律」で、(1)医師少数区域に勤務した医師を評価する制度の創設、(2)都道府県における医師確保対策の実施体制の強化、(3)医師養成課程を通じた医師確保対策の充実、(4)地域の外来医療機能の偏在・不足等への対応―などの医師偏在に対する対策が示された。
 この議論を進めていく上で、医師の偏在の状況把握が必須であるが、従来用いられてきた人口10万人対医師数では医師の偏在の状況を十分に反映していないとして、「医師偏在指標」が編み出された。
 医療圏ごとの医師の偏在状況を全国ベースで客観的に示すために、地域ごとの医療ニーズや患者の流入数、医師の供給体制等を踏まえて算出されるもので、上位3分の1が医師多数区域に、下位3分の1が医師少数区域に設定された。
 約3年間の運用を経て、昨年秋に、より精緻(せいち)な算出方法に改良された本指標は有用性が高いと考えられる。

北海道の現状と不安

 広域な北海道は六つの三次医療圏と21の二次医療圏からなり、医育大学が3カ所ある。その所在地や中核都市に医師が集中するのは他の都府県と同様であり、都道府県別の医師偏在指標ランキングも28位で、全国と比較し、まずまずの位置かと錯覚させられる。
 医師少数区域も10地域とそれなりに多いが、最大の問題は、これらの多くが広大な北海道の辺縁(へんえん)に位置していることから、医師や患者の移動に大きな制約を受けているという点にある。医師多数区域から医師を派遣する仕組みはあるものの、飛行機での移動や宿泊を伴うのは当たり前で、2泊3日や3泊4日で当直を含めて地域医療を支えているのが実態だ。 
 2024年4月から労働時間の上限規制が厳格に適用されると、前述した医師派遣の多くを中止もしくは縮小せざるを得ず、地域医療が崩壊する懸念が現実のものとなりつつある状況で、いまだ有効な対策は示されていない。

診療科の偏在

 診療科の偏在については、医師総数が増加する一方、外科と産婦人科だけは横ばいである。特に、外科医は過疎地で中核を成す男性が高齢化してきており、若手や女性は大都市に集中している傾向だ。このままでは医師少数区域の外科医がリタイアした穴は埋められず、例え外科医の総数が変わらなかったとしても、手術を行えない地域が増加するであろう。
 働き方改革の面でも一定程度の集約化はやむを得ないとしても、手術可能な医療機関への移動時間を加味した対策は喫緊の課題である。

新専門医制度の課題

 2018年度から始まった新専門医制度は、開始時点から"専門医の質の担保"と"地域医療体制の維持"という、場合によっては相反する命題を背負わされてスタートした。北海道の専攻医は2018年の296人を皮切りに例年300人以上をキープしてきたが、その分布には大きな偏在がある。制度上複数の専攻医を抱えることができる指導医数の多寡よりも、症例数がある程度確保される基幹病院の存否の方が要素として重要と思われた。
 現状では、最低限の地方病院研修を課すプログラムが多い中で、医師少数区域への専攻医派遣を最大限増やす方向での基幹プログラムへの介入は、有効な対策の一つと考えられる。

終わりに

 医師偏在対策は複雑な連立方程式であり、いまだその解が見つかったとは言えない。プロフェッショナルオートノミー、また、初期救急医療体制への参画等、地域に根差した医師の活動とともに、国や都道府県はこれまで以上に対策を講じていくことが必要であることは自明であろう。

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