勤務医のひろば
2021年5月28日に、医師の働き方改革を進めるために「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」が公布され、特例水準の対象となる医療機関に関する事項については、いよいよ来年2024年4月から施行される予定である。医師の働き方改革の主なポイントは、(1)時間外労働時間の上限規制、(2)追加的健康確保措置の実施、(3)医療機関勤務環境評価センターの設置―の三つである。
医師は医療機関においての勤務実態が把握しにくく、また人員不足により長時間労働となりがちであるが、この改革により長時間労働が減少する可能性がある。大学病院では、いわゆる関連病院からの日中、夜間の診療の応援依頼があり、大学病院での勤務医は自院での勤務以外の労働を担うことが多い。しかし、来年度から他院での勤務も勤務時間に含まれるため、特に夜間の応援診療はかなり制限されることが地域医療提供の観点から懸念される。
大学病院で勤務する臨床医は診療だけでなく、学生教育と研究(大学院生への指導も含める)も担当する必要がある。大学で勤務する医師にとって診療は当然だが、学生教育も重要であるため、来年4月以降の「医師の働き方改革」の実施により研究に対する時間を割くことがかなり困難になる。「研究は自己研鑽(けんさん)のため勤務時間に含めるべきでない」という考えもあるかも知れないが、それでは「医師の働き方改革」は形骸化される。
では、勤務時間の制限がある中で研究を進めるためにどうすれば良いのか。これは各講座あるいは大学で一括して採用した実験助手に実験をしてもらい、大学病院の勤務医は実験データをできる限り勤務時間内に確認するという方法を取るしかないのではと考えている。
もちろん、実験助手の雇用に当たり費用が発生するが、現在の状態のままでは、来年度以降も大学勤務医が「自己研鑽」と称して診療業務後に「研究業務」を続けるか、医学部における研究活動が低下するかのどちらかになってしまうことが危惧される。
国には、「医師の働き方改革」の一貫として、実験助手の費用負担も含めて、わが国の医学研究力を低下させない施策を考慮して頂きたい。