令和5年(2023年)11月20日(月) / 日医ニュース
令和5年度全国医師会勤務医部会連絡協議会「2024年、変わる勤務医、輝く勤務医」をメインテーマに開催
青森県医師会常任理事 樋口 毅
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令和5年度全国医師会勤務医部会連絡協議会が10月7日、メインテーマを「2024年、変わる勤務医、輝く勤務医」として青森市で開催され、活発なディスカッションが行われた。
冒頭のあいさつで、松本吉郎会長は「医師少数県の工夫と苦悩を共有し、日本医師会の施策にも反映させたい」との考えを表明。また、高木伸也青森県医師会長は「新医療計画、働き方改革の施行が半年後に迫り、さまざまなレベルの相互理解、協調が必要になっている」と指摘した。
特別講演Ⅰ「安全・安心な医療の実践に向けて」
松本会長は、最近の医療事故・医事紛争の傾向と日本医師会の取り組みについて説明。「安全・安心な医療提供には、患者との間の信頼関係醸成(じょうせい)が必須である。また、信頼関係に根差した医療の実現には、医療提供者の義務と同様に、受療側にも節度ある行動が求められる」とし、医療環境が変化する中で、安全・安心の確保、患者との信頼関係の構築は、医療人の普遍的価値であると強調した。
特別講演Ⅱ「健康・医療ビッグデータの可能性:岩木健康増進プロジェクトを中心とした青森県での取り組み」
中路重之青森県医師会副会長/弘前大学学長特別補佐は、「平均寿命は社会の充実度、幸福度を表す指標で、単なる寿命の長短ではない。日本一の短命県返上は、より良い社会をつくる意味でも重大である」とした上で、その解決のためには産官学民の連携が必要で、弘前大学では一人3000項目超の住民リアルデータを経時的に蓄積、解析していることを報告した。
また、並行して、青森県医師会附属健やか力推進センターでは、健康チェックを行い、その場で各自に啓発する"QOL健診"を実施していることを紹介。これらのデータは将来有効なPHRとなる可能性を秘めているとして、その活用に向けた今後の展望にも言及した。
日本医師会勤務医委員会報告「〜勤務医のエンパワーメントを通した医師会組織強化〜」
渡辺憲日本医師会勤務医委員会委員長は、今期の委員会の論点として、(1)医師会は勤務医を守る組織という啓発、(2)若手勤務医の医師会活動参画への支援、(3)医師会理事会・委員会等への勤務医の参画推進、(4)研修・キャリア形成への医師会の積極的関与、(5)働き方改革への医師会支援、(6)全国8医師会ブロックの勤務医部会・委員会の設置動向―などを挙げ、勤務医の医師会活動参画の充実が組織強化の鍵になると強調した。
その後、次期担当県である福岡県医師会の蓮澤浩明会長からあいさつがあり、次期開催への意気込みが示された。
特別講演Ⅲ「縄文と生きる―縄文遺跡群の魅力と価値―」
岡田康博三内丸山(さんないまるやま)遺跡センター所長は、世界遺産の「北海道・北東北の縄文遺跡群(Jomon Prehistoric sites in Northern Japan)」について紹介。「この時代は日本の歴史の大半を占め、現代生活や文化の基層とも言える。過去を知り、現在を見つめ、未来を思えることが縄文遺跡群の大きな魅力であり、価値である」と述べた。
シンポジウムⅠ「第8次医療計画、5疾病6事業について」
今明秀青森県医師会勤務医部会部会長/八戸市立市民病院事業管理者は、「医療の原点は救急にあり」と題して、「救急と災害は、個々の医療施設の努力では解決不可能であり、政府主導により指標を明確にし、医療機関の連携(役割の明確化)と機能のレベルアップが必須である」と指摘するとともに、ドクターヘリ、ドクターカーの普及と整備、新興感染症蔓(まん)延時のDMAT、DPATの活動等を紹介した。
大西基喜青森県感染症対策コーディネーター/青森県立保健大学特任教授は、「新興・再興感染症について」と題して、青森県の新型コロナ禍を振り返り、「入院内外の療養環境は何とか整備できたが、後方医療機関の不足、通常・救急医療の圧迫など課題も多い」とし、その解決のためには感染症モデルを織り込んだ外来や感染症病床の概念の整理が必要と述べた。
松岡史彦六ヶ所村医療センターセンター長は、「へき地医療の"未来の形"」として地域医療支援センターのシステム、巡回診療などの現状に触れ、今後発展させるべきICT登載巡回診療車両や遠隔画像相談システム、また業務移管として特定ケア看護師、診療看護師育成の必要性を強調した。
斎藤博青森県立中央病院医療顧問/青森県がん検診管理指導監は、「がん対策」と題して、科学的根拠に基づくがん検診施行の重要性、"発見率"を"有効性の指標"と考える誤解について説明。弘前大学と共に県に提言し、正しい有効性評価による検診アセスメント、精度管理と受診率向上を意図した国際標準のがん検診への転換を目指しているとした。
その後のディスカッションでは、「他県の救急医療の現状」「科学的根拠に基づくがん検診の展望」「へき地医療での診療看護師養成の障壁」などについて意見が交わされた。
シンポジウムⅡ「これから始める『働き方改革』―医師少数県における工夫と苦悩―」
袴田健一弘前大学医学部附属病院長は、「働き方改革とは、医師の健康を守り、持続可能な医療提供体制を構築する一方で、労働時間削減かつ地域医療の水準維持という二律背反の課題が課せられている」との認識を示した上で、医師から他職種へのタスクシフトの環境整備、ビーコンタグによる勤務管理と時間外労働上限の設定などの対応を説明。大学という特殊環境においては、自己研鑽(けんさん)の位置付け、労働単価の見直し、更に保険診療上の財政加算などの議論が必要との考えを示した。
藤野安弘青森県立中央病院長は、勤怠管理、業務効率化推進の取り組みから医師数増加が最も働き方改革に寄与する因子であるが、容易ではないため、医師から他職種への積極的な業務移管を行っていることを報告。診療看護師の育成は非常に有効ではあるものの、その人材確保も難しく、医師以外のスタッフ間での業務移管を促進することも必要だとした。
岩村秀輝つがる西北五広域連合つがる総合病院長は、医師偏在指標が県内最下位のエリアにおける中核病院の現状として、(1)時間外患者数が多く、宿日直許可が認められず、しかも勤務間インターバルは厳守であるため、夜勤可能医師確保が急務であるが難度は高い、(2)国は、医師偏在是正のため、医学部入学の地域枠設定、初期臨床研修医の都道府県別定員倍率の低下、診療科別専門医上限設定などの方策を講じたが、当圏域の中核病院ですらいまだ医師不足である―ことを説明。「医師偏在改革が進まないまま働き方改革と称して一律の労働時間で区分するのは、"スタートが違うのにゴールは一緒"であり、違和感を覚える」と訴えた。
丹藤伴江弘前総合医療センター産婦人科部長は、キャリアに関する県内女性医師へのアンケート結果を紹介。「当地の勤務医は若くして多くが常勤雇用され、社会保障・身分保証はされているが、休職後の復職の際、慢性的マンパワー不足もあり、フルタイム復職の依頼が多く、結果的に永久離職ともなる」とした上で、段階的な復職希望の医師が、自分時間を確保したい常勤医師と業務分担することで双方に利する可能性があるとの認識を示した。
更に、この観点で働き方改革を進めることにより、女性医師の社会復帰の円滑化、また、男性医師の家庭(家事育児)における男女共同参画も促進される可能性を示唆した。
その後のディスカッションでは、大病院での逆紹介を増やすことが改革の一歩という意見があったが、青森県の現状では理想と現実の乖離(かいり)が大きく、実現は困難であるとの意見もあった。
「あおもり宣言」採択
最後に齋藤美貴青森県医師会勤務医部会幹事より「あおもり宣言」(別掲)が読み上げられ、満場一致で承認、採択された後、協議会は閉会となった。
あおもり宣言
労働時間の上限規制を伴う医師の働き方改革と新興感染症を踏まえた医療提供体制構築という大きな変革が目前に迫っている。働き方改革が目指すものは「医師誰もが、心身の健康を維持しながら、生き生きと医療に従事できる環境の実現」である。これは個々の医師の考え方や一医療機関のみの対応だけでできるものではもちろんない。全国各地の医療の現場とその同心円上にある社会のインフラ、そして医療機関同士の相互関係を、地域の実情に沿ったデザインに変え、ICTなどを利用して有機的に結びつけてゆく必要があるだろう。 医療に関わるステークホルダーは国民全てである。医療従事者が健康で生き生きと働ける環境の実現には国民一人ひとりの自覚とそれによる社会全体の変容が起きなければならない。働き方改革を機にその意識を高める必要がある。 新型コロナ禍は、本年5月にWHOから緊急事態終息宣言も出された。決してコロナが終息したわけではないが、社会はパンデミック前に回帰しつつある。しかし、同じ事態が再び起こることへの備えは必須である。社会が平時と認識している今こそが、その時かもしれない。 私たちは、働き方改革施行後も、勤務医のより良い労働環境推進を念頭に置き、同時に新興感染症などを平時から見据えた医療計画の構築を目指して、国民へ向けて次のように宣言する。 一.働き方改革では、医師、患者、地域社会すべてにとって、より良い医療環境の実現を推進する。 一.新興感染症によるパンデミックへの対策は平時にこそ、医療機関の役割分担と連携のもと、詳細かつ緻密な計画をたてることが重要である。 一.働き方改革においても、新興感染症対策においても、勤務医と開業医、さらには、病院と診療所ともに一体となって目的達成を目指す。 令和5年10月7日
全国医師会勤務医部会連絡協議会・青森
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