令和5年(2023年)12月20日(水) / 日医ニュース
女性外科医の支援と新しい外科教室への取り組み
富山大学学術研究部医学系消化器・腫瘍・総合外科/富山大学附属病院副病院長 藤井 努
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外科医は不足しているのか?
「外科医不足」と言われて久しいが、われわれ外科医と、世間の一般的な認識は大きく異なるようである。先日、ある公的病院の院長先生にこのようなことを言われた。「外科医なんて花形なんだから、人手は余っているでしょ?」。一般的な「医師総数調査」は、「外科」と一括りにされているために、「外科医数は横ばい」とされている。しかし、外科と言っても今は細分化されており、これは真の実態を表してはいない。
私の調べた限り、内科系、整形外科、泌尿器科、麻酔科、眼科などのほとんどの学会では、ここ20年で全て会員数が増加している。危機と言われた産科婦人科学会、業務が大変そうなイメージの心臓血管外科学会でさえ、会員数は増加している。私の所属する消化器外科学会だけが、20年前から10%(約2000人)以上も会員数を減らしている。
なぜ一般的にも、また医療者にさえもこの事実が実感されていないか。それは単に「頑張っている消化器外科医が多い」からであろう。がんを治す、患者の命を救うという使命の下に、必死に手術をこなし、休日や睡眠時間返上で、生活・家庭を犠牲にして病棟業務を行っているからである。
しかし、これは自己犠牲が当然とされた外科教育を受けた、私を含めた50歳以上の消化器外科医までが限界である。消化器外科学会の50%以上は50歳以上であり、近い将来、学会会員数は1万人を切るかも知れない。その後の消化器外科業務のactivityはどうなるか。増加傾向の消化器がんの手術を、誰が行うのだろうか。
外科医減少の理由
新臨床研修制度により、若手医師は大都市圏に集中してしまい、ただでさえ地方大学に残る若手はいない。更に、外科(特に消化器外科)は不人気診療科としては安定してトップクラスである。①労働時間が長い②時間外勤務が多い③業務量の割に賃金が少ない④医療事故のリスクが高い―などは有名な理由とされている。なぜか外科医は、「外科以外の業務」をたくさんご依頼頂く(押し付けられる)ことが多い。麻酔、内視鏡、ICU、化学療法、緩和、救急、栄養、感染、医療安全など、枚挙(まいきょ)に暇(いとま)が無い。もちろん、業務が増えても、賃金は他の診療科と変わらない。帰宅時間が他科より遅くなっているだけである。
更に、外科特有の「見て覚えろ」という教育、「苦労した方が良い」という迷信、「体力が必要」という風習が、輪をかけて現代の若手を遠ざける。これでは外科医、特に地方の消化器外科医が増えるはずも無い。これらの是正のためには病院上層部の方々にもご理解頂く必要があるのだが、安くこき使える外科医の業務を減らすのは損だと思われるのか、改善される気配は無い。まさに悪循環。「転がる石のように」右肩下がりの業界である。「がんの手術は6カ月待ち」という崩壊は、すぐそこまで近づいている。
富山大学第二外科教室にて
私は2017年に富山大学第二外科教室に着任した。消化器外科、乳腺内分泌外科、小児外科を担当する診療科であるが、当時の人員は教員(私より年長者を含む)が10人、外科になったばかりの専攻医が4人という状況であった。ちょっとした一般病院よりも少ない寂しい布陣であるが、手術もそれに応じてほとんど無かったので、残念ながらきっちり臨床を回すことはできていた。
しかし、このままでは大学教室としての職責を果たすことはおろか、教室の継続さえも不可能である。私は二つの点を重視した教室運営を心に決めた。一つは、私の信念である「自分がされて嫌だったことはしない、自分がして欲しかったことをする」。もう一つは「女性医師の活躍の場をつくる」である。
自分が嫌だったことは医局員にはしない
振り返ってみれば、私も当初から獅子奮迅(ししふんじん)に外科医として業務をしていたわけでは無い。若い頃は、部長が帰る前に帰ってはいけないという無意味な深夜労働(単に院内にいるだけ)、回診当番がいても毎日患者を診に行くのが当然という休日年末年始返上の日々、感情的な指導、過度な年功序列と徒弟制度。「自分が若い頃は休みなんか取ったことは無い。だからお前が休むなんて絶対に許せない」と先輩医師に言われたこともある。他施設に見学に行きたいと言ったところ、上司に叱責されたこともあった。
外科という業務・業界に絶望した瞬間があったことは忘れてはいけない。せめて、自分の医局員だけには、自分と同じ嫌な思いは一秒たりとも感じさせないであげたい、その一心は当時も今も変わらない。詳細を書くにはスペースが足りないが、教室運営や臨床業務変革において、全てはそれを基準に決定してきた。
女性外科医は絶対に必要
また、現在は医学部の約半数が女性である時代である。女性の気遣い、細やかさ、手先の器用さは、外科という診療科に適していないはずがない。「外科は男しかできない」という、女性を受け入れない風潮を完全に撤廃することを誓った。体力や精神力が頑強ではない女性であっても、楽しく業務・手術ができるような配慮を徹底的に行った。
これも詳細を書くにはスペースが足りないが、一つ言えるのは、女性だけを優遇したことは一度も無い。「女性がつらくなく楽しく働ける業務体系・環境を整備すれば、それは男性にとっても幸せであるはず」という信念に基づいて尽力してきた。
以上を徹底して行った結果、着任して6年間で男性23人、女性13人の入局者に恵まれた。新設地方大学の外科教室としては多い方であろう。既述の取り組みを機会があれば改めて紹介したいが、とにかく、今まで私を支えてくれた最高の医局員達には感謝しかない。