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令和6年(2024年)2月20日(火) / 日医ニュース

これからの医療問題解決のためには救急医の育成が鍵となる

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これからの医療問題解決のためには救急医の育成が鍵となる

これからの医療問題解決のためには救急医の育成が鍵となる

日本における救急医療

 救急医療の現場においては、診断よりもまず、患者が訴える病状に対して対応することが要求される。生命に関わる緊急性と重症度が重要となり、意識、呼吸、循環といった生理学的所見を重んじ、患者の安定化(痛みや苦しさを取り除くことも含む)を図ることを目的とする。
 日本において救急医学そして救急医の育成は、大学救命センターの三次救急を主体として発達してきた。しかしながら、外科、内科と比べるとその歴史は浅い。そのため、救急医療を担う救急医(救急科専門医)の数はまだまだ少ないのが現状である。
 また、救急科、救急・総合診療科、救急・集中治療科として大学内で臨床・研究・教育に力を入れてきた大学とそうでない大学があり、そこには地域偏在が著しい。
 一方で、各科の専門分化に伴って救急初期診療も高度専門分化されてきており、初期対応がその後の患者の予後に影響する時代ともなっている。そのような経緯から、2018年からは専門医制度の改革により救急科は内科、外科と同じく基本専門医プログラムの19診療科の一つとなっている。

表 救急医学・救急医の役割
・救急医学とは救急患者が有している疾患の診断、治療、教育、研究を行う医学
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※救急科は新専門医制度では基本19領域の一つ

日本における救急診療の現状と課題

 近年の救急搬送の現状を見ると、三次救急のニーズよりも二次救急のニーズの割合が増えており、二次救急患者の搬送困難事案の現状が増している。もちろん、新型コロナウイルス感染症の影響が大きいところと思われる。
 一方で、三次救命救急センターが全国に設置されることにより、重症者の救急対応はある程度は緩和されたが、一般病棟入院で良い二次対応の患者においては、内科や外科の専門分化のためか、自分の守備範囲外の診療対応ができないことから救急を断るケースが増えている。
 今年4月から本格的に始まる働き方改革では、各関連病院へと大学から派遣されてきた当直医の減少により、この二次救急患者に対する搬送困難事案が加速する可能性がある(図)
 三次救命救急センターもある程度、二次救急を受け入れる体制をつくり、関連の病院と連携して病床を回さなくてはならないだろうと考えられる。

図 救急を断る医療機関が増加する要因
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救急科専属の専門医の増加は働き方改革問題の解決策となる

 現在、救急医療領域では、救急医を目指す医師は専門医プログラムに所属することが必要となり、救急科、救命救急センターに常在する救急医が増えることとなる。当直などの救急業務においては、この救急科専門医が増えることで外科、内科医による救急診療の兼務を少なくすることができるものと考えられる。
 更に、新型コロナのパンデミックにより集中治療医(多くの救急医が集中治療専門医にもなっている)の重要性が認識され、集中治療専攻医プログラムが昨年度より始まった。
 集中治療医も増えれば、アメリカのように外科医は手術のみに集中でき、術後は集中治療医に任せるというシステムになっていくものと考えられる。

これから求められる救急医の役割

 救急医は対象となる疾患として心肺蘇生やショック患者が多いため、回復の見込みのない終末期の患者に対応することも多い。そのため、日本において救急医学分野はアドバンス・ケア・プランニングやリビングウィルなどを通じて、医学の中での死生観を扱う分野でもある。
 一方で、救急医は臓器提供という役割も担っており、先進国の中で非常に遅れている臓器提供体制を進めるところでもある。そのような点でも、救急医学は日本の今の医療問題の解決に貢献できる分野である。
 また、図らずもこの原稿を書かせて頂いている折に、能登半島地震、航空機事故の報を聞いた。激甚化している日本の災害医療においても、急性期の医療を担うDMAT(災害医療派遣チーム)を担っているのも我々救急医である。救急医の必要性は以前にも増して必要とされているものとなってきている。
 最後に、この度、私は大学に新設される救急医学講座を任されることとなった。これから救命救急、集中治療という分野で大学勤務医として若い救急医の育成を行い、社会に貢献できればと決意を新たにしている。

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