令和6年(2024年)4月20日(土) / 日医ニュース
すべての医師が公私ともに輝くために『妊娠に際し職場のみんなで読むマニュアル』
京都第二赤十字病院消化器内科/京都府医師会理事 堀田祐馬
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勤務医のページ
1.妊娠出産に関する情報はアクセスしづらい
以前に勤務していた職場で、後輩の女性医師から相談を受けた。それは、「妊娠したが、安定期でもないし、他の先生にはまだ言いたくない。しかし、放射線業務や当直、オンコールは胎児のために制限した方が良いならそうしたい。ところが調べれば調べるほど、何が正解なのか分からない」という趣旨のものであった。
今までに、私の周囲で出産を経験された女性医師はたくさんいたが、自分事として捉えたのは恥ずかしながらそれが初めての経験だった。幸いなことに、彼女は家庭でも職場でも周囲の温かいサポートを得ながら出産、職場復帰まで順調に経過し、家庭とキャリアの両立を、(恐らく)彼女が思い描いていた理想通りに進めることができた。
しかし、世間で多くの人が経験しているこの課題に、「分かりやすく、アクセスしやすい解決策や選択肢が提示されていないのはなぜだろう」という疑問が私の心に抜けない棘(とげ)として刺さった。
2.医師の世界は令和に追いつく必要がある
性別や背景にかかわらず、医師が仕事とプライベートの両方において充実した人生を送るべく、働き方改革が進められている。しかし、そのような社会の流れにもかかわらず、医師(特に女性医師)の働きにくさは多くの職場において、今なお解決にはほど遠い。
特に、妊娠・出産・子育てのステージにおいて、キャリアの継続が困難となる場面が、まだ皆さんの身の回りでしばしば起こっているのではないだろうか。
性別にかかわらず、プライベートを犠牲にして仕事に打ち込むか、キャリアを諦めるか、といった極端な選択を迫られる場面が往々にしてある。
令和の時代にあって、本来であればもっと多様な選択肢があって良いはずであるのに、そのような働き方、プライベートのあり方、生き方を認め合う価値観が共有されているとは言い難く、医師の世界全体の感覚や制度が追いついていない現状がある。
更に、妊娠、子育て世代と、そうでない世代、そうでない生き方を選択した医師達との間にしばしば分断が生じている。本来私達は、共により良い医療提供体制をつくり上げ、社会貢献していく仲間であり、対立している場合ではない。
3.『妊娠に際し職場のみんなで読むマニュアル』
私は、2021年に京都府医師会の理事に就任し、ワークライフバランス委員会の担当となった。ワークライフバランスとは対極の生活を送ってきた私は、それまで京都府医師会のこの委員会で積み上げてこられた議論や、子育てサポートセンターに代表される実績に圧倒された。何か自分にもできることはないかと考えていた時に、先の経験が思い出された。
アクセスしやすく、分かりやすい読み物をつくり、自身やパートナーの妊娠・出産を「考えた時」から、自分達にいったいどのような選択肢があるのか、適切な情報の入手を助けられないかと考えた。
また、それぞれの価値観は容易には変わらないが、私達医師同士がそれぞれの立場を知り、理解することで、壁が無くなり、互いに気持ち良く仕事ができ、より力を発揮できる医療社会の構築に貢献できるかも知れないと考えた。そのような趣旨で『妊娠に際し職場のみんなで読むマニュアル』の制作をワークライフバランス委員会に提案したところ、寛大な予算を割いて頂けることになった。
3名の強力な仲間を得てワーキンググループを立ち上げ、妊活から産後の職場復帰、子育てまでを細かくカテゴリ分けし、専門家による総論と、多くの医師によるさまざまな体験談とで構成した。
学閥や所属にとらわれず、多くの立場の方に執筆を依頼するためにはどのようにすれば良いのか思案していたが、執筆して頂いた方から数珠(じゅず)つなぎのようにまた別の執筆者を紹介して頂けるようになり、自然に仲間が増えた。この問題に対する課題意識を抱えている人が多いことを、改めてよく認識できた。
編集者としての仕事は私にとって初めての経験で、時には表現の変更をお願いしなければならないこともあり、慎重にやり取りを進めた結果、1年で完成する予定だったが、2年が経過した今も、ようやく半分を越えたところである。
私達が心血を注いで制作しているこのマニュアルは、WEBでご覧頂ける(下図二次元コード参照)ようにしている。
妊娠可能年齢の世代を部下、同僚、上司にもつ全ての医師にご覧頂き、意識を令和時代の多様な価値観にアップデートする一助となれば幸いである。