勤務医のひろば
私が勤務する市立砺波総合病院は、富山県の西南部にある人口約12万人の砺波医療圏の中核病院です。病床数は471床、医師数は約100名、総職員数は約1000名です。
昨秋、病院で開かれた接遇研修会の講師をしました。私は消化器内科医であり、接遇の専門家ではないので、心に残った言葉から最近の心理学的社会学的な知見を調べたことなどを話しました。
その言葉は、三浦綾子氏の『続・氷点』に引用されていた言葉「人が死んで、後に残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである。」です。
これは、たまたま新聞の読者投稿欄で知ったのですが、プロテニスプレイヤーであるノバク・ジョコビッチ氏の本を開いて驚きました。扉にはウィンストン・チャーチルの言葉が引用されていました。「我々は得るものによって生計を立て、与えるものによって人生をつくる。」ほとんど同じ言葉。
対人関係におけるギブアンドテイクに関して調べてみると、映画「ビューティフルマインド」のモデルにもなったジョン・ナッシュのナッシュ平衡がありますが、かなり難しい。興味深かったのは、ペンシルバニア大学の組織心理学者のアダム・グラント氏の『Give and Take』という本でした。
与える人を「ギバー」、奪う人を「テイカー」、バランスを取る人を「マッチャー」として、その社会的な成功度合い戦略の取り方などを観察的実験的に非常に詳しく調べています。興味深いことに、社会的にも、医学部の学生でも、最も成績の良い人は与える人「ギバー」だそうです。病院で調べても、ギバーの看護師が多い病棟のパフォーマンスが優れている。推奨される戦略は優しいしっぺ返し戦略だそうです。
若い人達には、初心の心、衝動に負けない礼儀正しい態度、そして、自分の能力の獲得と共に人に与える心を持って欲しいと、折りに触れて伝えるようにしています。