令和6年(2024年)10月20日(日) / 日医ニュース
心臓血管外科医として医師の働き方改革について思うこと
北海道立北見病院医療安全推進室長兼第二心臓血管外科部長/北海道医師会勤務医部会・若手医師専門委員会委員長 橋口仁喜
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勤務医のひろば
2024年は、心臓血管外科医にとって試練の年である。
医師の働き方改革により、時間外・休日労働時間の上限が原則年間960時間とされた上、心臓血管外科専門医基幹施設の認定基準である心臓・胸部大血管手術数が2024年より年間40例から100例に引き上げられた。このため、北海道においてこの基準を満たす施設は現在の半分程度になることが予想される。特に札幌市内の多くの施設は、基幹施設の維持が困難になるであろう。
更に、心臓手術を行う施設が基幹施設でなくなると、それに伴い、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)の施設認定の要件となっている「心臓血管外科専門医基幹施設」の要件が満たせなくなってしまう。施設の集約化によって技術や安全性の向上が図られる点は評価できるが、広大な北海道においては、適切な手術を受けられる施設に搬送されずに命を落とす患者が出る可能性もある。
一方、若手医師においては、時間外労働の制限により給与が減少し、「もっと手術を行いたいのに、手術の機会が減ってしまう」という状況が、モチベーションの低下を招いている。
また、一部の優秀な心臓血管外科医が海外や美容整形外科へ流れているという話も耳にする。
現在の時間外労働を制限する働き方改革だけが進むと、国内の心臓血管外科医が更に海外や他業種に流出し、状況が一層厳しくなることが予想される。インセンティブの導入等を含めた抜本的な改革が進められなければ、今後日本国内で心臓血管外科手術を受けることが困難になる事態も考えられるが、そのような事態が訪れないことを切に願う。