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令和6年(2024年)10月20日(日) / 日医ニュース

「災害医療(災害対策)」をテーマとして活発な討議

「災害医療(災害対策)」をテーマとして活発な討議

「災害医療(災害対策)」をテーマとして活発な討議

 令和6年度第1回都道府県医師会長会議が9月17日、日本医師会館大講堂で開催された。
 当日は「災害医療(災害対策)」をテーマに活発な討議が行われた後、事前に寄せられた質問に対して日本医師会執行部から回答を行った。その他、福井県医師会からはベースアップ評価料の届出・算定に係る取り組みについて説明が行われた。

 本会議は、都道府県医師会を六つのグループ(A~F)に分け、毎回一つのグループを中心にテーマに則した議論を行い、その後、都道府県医師会から事前に寄せられた同テーマに関連する質問に、日本医師会執行部から答弁する形で今期執行部中に6回の開催を予定しており、今回がその1回目となった。
 会議は城守国斗常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、令和6年能登半島地震での活動及び宮崎県日向灘を震源とする地震発生時の日本医師会の対応に言及。「いつ大きな災害に見舞われるか分からない状況にあるが、今後も都道府県医師会との連携を深化させていく中で、災害医療に係る体制を一層強化していきたい」と述べた。

Aグループによる討議及び全体討議

 その後、河野雅行宮崎県医師会長が進行役を務め、「災害医療(災害対策)」をテーマとしたAグループ(宮城、栃木、神奈川、山梨、和歌山、広島、高知、宮崎各県医師会)による討議が行われた。
 宮城県医師会は、「日本医師会災害医療チーム(以下、JMAT)活動は究極の医師会活動である」と述べ、日本医師会主導による医療救護班の切れ目のない派遣を提案するとともに、東日本大震災の経験から今後は財政支援が課題になると指摘した。
 栃木県医師会は、開業医がJMATに参加しやすい施策や、JMAT研修をより広く受講できる体制整備を求めた。
 神奈川県医師会は、災害医療に当たっては、その基本となる計画として、総務省消防庁の「地域防災計画」及び厚生労働省の「保健医療救護計画」があることを理解する必要があるとした他、災害関連死防止のためには発災直後から避難所整備を行う必要があるものの、国の所管が明確でないことを問題視した。
 山梨県医師会は、災害時に外部支援が得られないことを想定した体制の構築とそのための国の財政支援等を要望した。
 和歌山県医師会は、高齢者施設等への災害対応のために、日本医師会の医師会会員情報システム「MAMIS」を活用したJMAT調整本部機能の強化を要望した。
 広島県医師会は、(1)JMATのミッション、(2)認知度向上の取り組み、(3)情報共有システム、(4)大規模災害時の受援体制づくり、(5)JMAT活動時の移動手段の確保、(6)広域災害救急医療情報システム「EMIS」の利用対象、(7)災害時の備蓄を支援する制度―に関する問題点を提起した。
 高知県医師会は、南海トラフ地震を想定し、平時から医療関係者や行政等とも連携強化を図っていることを説明。また、地域特有の課題等に即した訓練を実施する必要性に言及し、日本医師会の助言等を求めた。
 宮崎県医師会は、(1)医療機関の被災情報収集の効率化、(2)JMAT以外のチームとの情報共有手段の一元化、(3)変化する医療支援ニーズに応じたJMAT派遣、(4)JMATと災害派遣医療チーム(以下、DMAT)の役割分担の見直し等―について提案を行った。
 全体討議では、日本医師会に対して、DMATや日本赤十字社等を始めとしたJMAT以外の関係団体との連携、情報共有のあり方や調整本部の設置について相談できる場を求める要望等が挙がった他、石川県医師会からは能登半島地震での被災者支援や、そこから見えてきた課題等が報告された。

都道府県医師会からの質問に執行部より答弁

 引き続き、Aグループによる討議に関する意見等及び都道府県医師会より事前に寄せられた質問に対して、担当の細川秀一常任理事より回答を行った。
 細川常任理事はまず、本協議の論点としては、(1)統括JMAT機能の強化、(2)JMAT研修を受けていない人達に幅広く参画してもらうための方策、(3)被災地の都道府県医師会や郡市区医師会の支援、(4)JMATの類型化、(5)情報共有手段―に集約ができると説明。「今後は、本日頂いた意見などを基に会内の救急災害医療対策委員会(以下、委員会)でも検討した上で、日本医師会の防災業務計画、JMAT要綱及び災害医療支援業務計画の改正などを行い、災害医療対策の強化に努めつつ、関係団体等との連携強化も図っていく」と述べるとともに、各都道府県医師会にも、これまで以上の災害医療関係者との連携を求めた。
 続いて、Aグループからの意見、要望について回答。JMATに関しては、災害の規模などによって日本医師会の要請で、各都道府県医師会で編成した統括JMATの下で支援を行うことになることに理解を求めるとともに、その機能強化については、今期の委員会で検討を行う方針であるとした。
 また、JMATへの情報提供については、災害医療の基本的な知識等が簡単に分かるパッケージを事前に作成しておき、災害が起きた際には、その災害特有の情報を追加したものを提供するとした他、JMAT研修の医師会ブロック単位での開催支援なども含めて、関係学会と連携しながら検討していく考えを示した。
 また、5疾病6事業の医療計画に関する国の指針に、支援が困難な地域への視点が欠けているとの指摘に対しては、3年ごとの見直しの中で、能登半島地震の教訓を踏まえた検討を国に要請していくと説明。中央防災会議においても、既に松本会長から次の災害に向けて、さまざまな業種が連携し、医療を中心とした災害に強いまちづくりや、国を挙げてのオールアプローチで対応できる体制づくりの検討を申し入れているとした。
 「MAMIS」の活用については、本年10月30日のシステムリリース時では、被災時等におけるリアルタイムでの情報収集やメッセージ配信ができる機能は実装されていないが、今後、JMATに関する支援機能が実装できるよう検討していく考えを示した。
 JMATのミッションを問う質問には、JMAT要綱を説明した上で、「より多く参加頂ける仕組みとするための方策を検討していく」とした。
 また、認知度向上策として、被災者等へ日本医師会の災害医療チームであることが分かるように、名乗ってもらうことを徹底する他、日本医師会としても国民や多くの関係者に理解、協力を頂けるよう引き続き周知に努めるとした。
 更に、JMATの情報共有システムについては、JMAT研修や訓練で習熟できる体制の構築に努める他、支援を受ける都道府県医師会を支える体制の受け入れ方法をJMAT研修プログラムで見直すことを検討していくとした。
 被災地の移動手段の確保については、各都道府県単位で既に個々のレンタカーやタクシー業界の団体と地元の自治体、警察本部との間で個別に災害協定を結んでいるところもあることを紹介。両業界の全国規模の組織と日本医師会が全国の医師会を代表する形で協定を締結することは難しいことから、協定を結んでいない医師会には災害協定締結に向けた協議を進めてもらいたいとした。
 「EMIS」に関しては、その対象に無床診療所を加えるには、「平時の訓練に多くの診療所が参加する」「災害時に診療所が被害情報を入力する」ことの確実な担保が厚労省より求められていることを明らかとした上で、「MAMIS」での対応と併せて、さまざまな方策を検討する必要性があることを説明し、理解を求めた。
 JMATの仕組みについては、今回の重装JMAT対応を踏まえて、活動を類型化した場合の役割や装備を検討するとともに、他の医療支援チームの理解、協力も不可欠であることから、その方策を協議していく意向を示した。
 続いて、同常任理事は事前に寄せられた都道府県医師会からの質問にも回答した。
 秋田県医師会からのJMAT活動の派遣要請のシステムと代診医等の費用補償の質問には、能登半島地震では、支部ごとに必要な数を想定して募集を行ってきたことなどを説明。代診医の費用補償に関しては、補償の対象範囲や財源をどうするかも含め、今後の検討課題であるとし、各都道府県における公立・公的病院の医療チームへの補塡(てん)方法に関する情報提供を呼び掛けた。
 福島県医師会からのJMAT研修のオンデマンド配信を求める要望に対しては、ディスカッションの様子や画面操作を見られるよう可能な限り対応していくとする一方で、本研修は実際に参加することに意義があると理解を求めた。
 また、医師賠償責任保険に加入していない場合の派遣期間中の補償に関しては、日本医師会が契約者となり、補償対象者を特定・明記し、補償することは可能とし、具体的な保険料やオペレーションの他、「日本医師会が保険付保することが災害医療の現場でのオペレーション上、可能なのか」「保険料を負担する場合の不公平感」などの各種課題について検討していきたいとした。
 茨城県医師会からの避難者情報の把握に関する質問には、被災都道府県医師会は、災害発生時に都道府県行政の災害対策本部、保健医療福祉調整本部に役職員を派遣し、基本情報の把握に努めることが、郡市区医師会は、保健所や保健師とも連携することがそれぞれ重要であり、日本医師会としても、統括JMAT機能の強化に努めると強調。また、能登半島地震では避難者の個人情報の提供も課題となったことから、情報共有ツールのすみ分けや活用手順も重要な検討課題になると指摘した。
 更に、災害時に行政と協力して医療支援に当たることから、都道府県医師会でBCP(事業継続計画)の策定が進むことは望ましいとし、その参考例として、日本医師会で首都直下型地震を想定して策定したBCPをホームページに掲載していることを紹介した。
 東京都医師会からの本部機能を支援する体制の充実強化の要望については、統括JMATの役割や求められる能力を、他の医療支援チームなどの外部評価や参加者の意見を参考に見直す意向を示すとともに、来年3月に改めてJMAT研修の統括編を実施予定であることを報告。また、統括JMATを支えるロジスティクス機能についても、医師会職員によるロジスティクス機能の会議を企画していることを明らかにした。
 また、国際的な基準に準拠した避難所施設を地域ごとに設置することや、安否確認のアプリ開発の提案には、JMATに限らず、各医療支援チームの活動にも資するよう厚労省や内閣府等関係省庁へも提案を行っていくとした。
 富山県医師会からの広域災害における被災地医師会を介した行政、保健所等との円滑な連携の重要性の指摘には、災害時には初期段階から収束に至るまで、地域の医療機関の状況把握と情報提供や関係各所のつなぎ役など、郡市区医師会の役割が重要となるが、事務局が小規模で、自らも被災しながら対応せざるを得ないケースが多くあることから、統括JMATや日本災害医学会の災害医療コーディネーションサポートチームによる事務局作業の支援の要請などを検討していくとした。
 長野県医師会からのJMAT調整本部の位置付けに関する質問には、被災都道府県医師会には行政の災害対策本部、保健医療福祉調整本部に役職員を派遣し、プレゼンスを確保するとともに、県庁の保健医療福祉調整本部に場所を確保し、同じフロアに災害対策本部を設置することが求められるとした。
 大阪府医師会からの研修プログラムの見直しを求める要望に対しては、「参加のしやすさ」と「研修によって得られる到達目標」のトレードオフが課題になると指摘。当面の対応としては、災害医療活動に必要な事項をパッケージ化した資料を用意するなど幅広く参加できるプログラムとなるよう検討していくとした。
 兵庫県医師会からのJMAT事務局創設の提言には、会内の組織的な災害医療体制全般の中で、委員会委員、統括JMAT研修修了者や都道府県医師会の災害医療コーディネーター研修修了者を活用する枠組みを検討する他、統括JMATロジスティクスとして、前述の災害医療コーディネーションサポートチームの早期協力も含めて考えていく意向を示した。
 また、被災地医師会の支援スキームについては、同医師会を支える統括JMATの機能強化をまずは考えていくとした。
 沖縄県医師会からの統括JMATを事前に登録しておき、災害時には交代でその任務に当たってもらうという提案には賛意を示すとともに、統括医師を日本医師会直属とするとの要望には、JMATは「日本医師会」の直属のチームであり、その位置付けを明確にできるよう統括JMATの機能強化を検討する中で考えていきたいとした。

ベースアップ評価料の届出・算定の意義を強調―福井県医師会

 その他、当日はベースアップ評価料(以下、評価料)の届出に関して、池端幸彦福井県医師会長から同県医師会の取り組みについて説明が行われた。
 評価料の届出については、全国的に診療所の届出率が低いとされる中で、同県では50%を超える届出が行われているが、池端福井県医師会長は、その数字が達成できた理由として、説明会の開催や機関紙、ホームページなどに評価料の概要や意義、Q&Aを掲載したことがあったと指摘。
 また、説明の際には、(1)診療補助を行っている事務職員は対象に含まれる、(2)対象職種であれば専従者(院長の配偶者など)であっても対象に含まれる、(3)給与総額は事業主負担の法定福利費を含めて記載するが、基本給総額には含めない―ことを中心に話をしたとし、特に、届出が面倒で自腹で賃上げをしようとする先生方も多い中で、評価料は算定する前後での賃上げが必要であり、当初の負担は少額でも5年後には多額の負担をしなければならなくなることを説明したことが影響したとの見方を示した。
 更に池端福井県医師会長は、今後の中医協での診療報酬改定議論への影響についても言及。評価料の届出・算定数が少なければ、財務省や支払側は必ず、「本評価料は必要なかったのではないか」と主張してくるとし、今回、評価料を届出・算定することの意義を強調した。
 その後は松本会長の総括があり、会議は終了となった。

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