今号では大阪・関西万博の開催を記念して、大阪府医師会の加納康至会長、宮川松剛副会長、栗山隆信理事に出席頂いて実施した特別座談会の模様を紹介する(司会:黒瀬巌常任理事、3月16日大阪市内で実施)。 |
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黒瀬 大阪・関西万博には約2820万人もの方々が来場すると言われていますが、来場者をどのように守っていこうとされているのか、本日は大阪府医師会の役員の皆さんにお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
加納・宮川・栗山 よろしくお願いいたします。
黒瀬 加納会長、大阪・関西万博の開催に当たって、医療面での課題としてはどのようなことがあったのでしょうか。
加納 大阪・関西万博は長期間にわたる大規模イベントであり、国内外から多くの来場者が見込まれることから、医療救護体制の整備が大きな課題の一つとなりました。
地震やテロなどの緊急事態の場合には多数傷病者への対応が必要となりますので、万博会場内の医療施設だけでなく、周辺の医療機関とのスムーズな連携体制の確立が、また、国内外から多くの人が集まりますので、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ、あるいは輸入感染症などへの対応、夏季の熱中症対策も重要なポイントでした。
その他、海外からの来場者にも適切な医療を提供するための通訳体制、国際標準に基づいた医療対応をどう確保するのかも課題でした。
そのため、開催に当たっては2025年日本国際博覧会医療救護協議会を中心に、大阪の救急に関わる関係者が集まり、体制づくりを進めてきました。
黒瀬 宮川副会長、加納会長からご説明頂いた課題に対する具体的な対応について教えて頂けますか。
宮川 はい、大阪・関西万博の会場内には、西ゲート、リング北、東ゲートの3カ所に診療所が、また各所に五つの応急手当所が設置されました。
西ゲート診療所には災害発生時の拠点となる機能をもたせ、救急・災害医療に長けた医師が2名常駐しています。1日に2交代制で、開場から閉場まで対応します。
リング北、東ゲート診療所は午後4時30分まで開所しており、平日は医師が1名配置されています。
また、休日は2名体制で担当しており、症状の悪化防止・軽減が主な目的となります。
重症患者については速やかに周辺の医療機関へ搬送できるよう、救急搬送のルートや手順を整備しています。感染症の疑いがある傷病者の対応についてはマニュアル化もしています。
万が一、多数の傷病者が発生した場合には、統括医療責任者の統制の下で医療救護活動を行います。具体的には医師・看護師等の協会救護隊が情報を収集し、危機管理センターに報告。統括医療責任者はその情報を基に、活動方針を決定することになっています。
こうした情報は大阪府警本部、大阪市消防局、大阪府とも共有され、迅速に救護活動が行える体制を取っています。
開催前の2月23日にはCBRNE(化学・生物・放射性物質・核・爆発物による災害の総称)に対応する多数傷病者研修が、3月9日には平時の医療救護体制に関する総合研修がそれぞれ行われましたし、私も参加させて頂きましたが、3月12日には多職種合同による患者搬入から搬送までの演習を行うなど、準備を進めてきました。
黒瀬 加納会長、宮川副会長に具体的な対応についてご説明頂きましたが、大阪府医師会はどのように関わられ、どんな準備をされてきたのでしょうか。
加納 平日の派遣については大阪府病院協会並びに大阪府私立病院協会に調整頂きましたので、大阪府医師会としては、日曜、祝日に西ゲート診療所以外の診療所に、医師を2名ずつ派遣しています。急に会場に行けない場合などは、原則本会の役員が交代で出務することとしています。
また、準備につきましては、2月19日に日本医師会の救急災害医療対策委員会の山口芳裕委員長/杏林大学医学部主任教授・高度救命救急センター長にお越し頂き、マスギャザリングにおける留意点やCBRNEへの対応などについてご講演頂きましたし、4月10日には出務医師を対象として、訓練の伝達を兼ねた説明会も実施しました。
黒瀬 栗山理事、宮川副会長から救護体制の訓練が行われたと先程伺いましたが、具体的にどのようなことが行われたのでしょうか。
栗山 2月23日のCBRNEに対応する多数傷病者研修では、事前に約4時間の動画を視聴した上で参加頂き、大阪・関西万博における医療体制や一般的な災害概論を座学にて、その後、トリアージPAT法に関する実技演習、そして、最後には想定事例でのCSCATTT(災害発生後に取るべき行動である七つの基本原則の頭文字)に基づいたグループディスカッションがそれぞれ行われました。
また、3月9日の総合研修は万博会場内で行われましたが、軽症者から心肺停止等の重症者に対する対応や、外国人及び発熱患者の診療に関する図上訓練と実地訓練を行いました。
まずは看護師が問診・トリアージを行い、中等症以上と判断された場合には、医師が応急診療を行い、診察の結果、場外搬送が必要と判断した場合には危機管理センターに連絡することになっているのですが、状況によっては無線を使った連絡となるので、その訓練なども行われました。
会場内の診療所では設備や導線を確認し、屋外では、現在日本で大阪の万博会場にしか設置されていない、公道も走ることができる2台の軽EV救急車の見学もしましたが、会期中にはこの救急車を活用し、協力医療機関へ場外搬送することになっています。
現地での集合訓練は初めてでしたので、参加者から色々な質問や要望が出されましたが、その場で修正・確定することによって、万全の医療・救護体制の確立が図られたと思います。
更に、3月12日には多数傷病者を想定して本番さながらの訓練も実施されました。
黒瀬 加納会長、先程課題として挙げて頂きました周囲の医療機関との連携・協力はどのようになっているのでしょうか。
加納 今回の万博では会場への交通網が限られていることから、スムーズに搬送できる体制の構築が非常に重要でした。そのため、重症患者の搬送先として、ドクターヘリでの搬送も踏まえて中核病院とも連携体制を構築しています。
また、大阪市内の二次救急医療機関の協力により、万博協力医療機関として約50~60病院において受入体制の確保がなされていますので、会場内診療所で救急搬送の必要性を認めた場合には危機管理センターが転院調整を行い、これらの協力病院に対して救急要請することになっています。
黒瀬 宮川副会長、先程加納会長も課題として挙げられていましたが、夏場の熱中症が心配されます。その辺りについてはどのような対策が取られているのでしょうか。
宮川 そうですね。昨今の酷暑を鑑みれば、熱中症対策は非常に重要です。重症化前に適切な対応を取ることが効果的であり、会場内全ての医療救護施設で対応できる体制を構築しています。診療所では脱水症状等を認める患者に対して点滴等を行える体制を整えています。
また、会場内では、各所に給水ポイントを設置し来場者に水分補給を促すとともに、ミストシャワーやエアコン完備の休憩エリアを設置し、暑さ対策を強化することになっています。
黒瀬 栗山理事、開会式にはTSATというチームも派遣されたそうですが、このTSATについても教えて頂けますか。
栗山 はい、TSATはTrauma Surgical Assistant Teamの略で、爆傷・銃創・切創などの重篤な外傷に対応可能な外傷外科医のエキスパートとして、大規模イベントやマスギャザリングに派遣されるものです。
万博の開会式では賓客も多かったですし、大変心強い存在でした。
黒瀬 加納会長、最後に全国の会員の皆さんにメッセージをお願いします。
加納 大阪・関西万博は、日本の医療体制の強さを世界に示す場でもあると考えており、大阪府医師会としても、安心・安全な万博の実現に向け、関係機関との協力の下、全力で取り組んで参りたいと思います。
「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマとなっておりますので、会員の先生方におかれましてはぜひ、会場に足をお運び頂ければ幸いです。本日はありがとうございました。
黒瀬 今回お話を伺うことができて、開催に至るまで、大変なご苦労があったことが改めて分かりました。
この座談会の前には万博会場内の診療所や軽EV救急車も視察させて頂きましたが、皆様方のおかげで万全の体制が取られていることが実感できました。ぜひ、この開催期間中、私的にも訪れたいと思います。
本日は加納会長始め大阪府医師会の役員の皆様方にはお忙しい中、ありがとうございました。
これから半年間、長丁場になりますが、来場者の安心・安全のため、引き続きよろしくお願いいたします。
大阪・関西万博とは |
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![]() 写真の大屋根リングは日本の神社仏閣などの建築に使用されてきた伝統的な貫接合(かんせつごう)に、現代の工法を加えて建築されたものである。 「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインの理念を表す万博会場のシンボルとなる建築物となっている。 |