日医ニュース 第857号(平成9年5月20日)

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福岡市における行政の医師と医師会
医療効果を高めるため組織率の拡大を

福岡市型の在宅ケアネットワーク

 福岡市型の在宅ケアネットワークがある.都市の豊かな保健・医療・福祉資源をネットワークした高齢者在宅ケアサービスシステムである.
 この特徴の1つは,相談の場を在宅ケアホットラインと称して,区ごとの保健所に置いていることであり,もう1つは,福岡市医師会立在宅介護支援センター職員が,同じ在宅ケアホットラインの看板のもとで,保健所職員と机を並べて市民サービスに従事していることである.全市7カ所のそれぞれで,医師会と行政が共同して高齢者の在宅ケアの事業を行っているのである.
 しかも,医師会は区ごとに訪問看護ステーション(7カ所)を運営しており,これもネットワークの大きな要をなしている.この行政と医師会の連携のよさは,周囲から高く評価されている.行政に働く者も医師会員もお互いにこのことを誇りにしている.
 この背景には,医師会の積極的な地域活動の歴史がある.福岡市医師会は,在宅医療検討委員会をつくり,かかりつけ医主導型の体制づくりに努め,かかりつけ医を在宅ケアのコーディネーターと位置づけてきた.このことが医師会活動と行政の共同事業の成功の源と考えられる.また,歯科医師会にもボランティア活動としての在宅訪問歯科診療事業があったし,薬剤師会も,在宅ケアホットライン協力薬局店としてネットワークに加わってきた.3師会に福祉関係者を交えての事例検討会が保健所ごとに頻繁に行われていることも,この事業を円滑にしている.
 市医師会と衛生局,区医師会と保健所は,あたりさわりのない関係ではなく,激しく議論ができる仲である.お互いに信頼し合っているからこそ,闘えるし,その成果を一緒に楽しむこともできるのであろう.

医師会と行政との協調関係

 福岡市の行政には医師が30人いる.局に3人,保健所に23人,教育委員会に1人,健康づくりセンターに3人である.1保健所に3〜4人の医師というのは,他都市に比べれば恵まれているといえよう.保健所と局,保健所間の連携もよく,行政サービスは一枚岩で行われている.医師会員は11人で,会員に送られてくる医師会雑誌,医報等は局,保健所など課長以上の職員,医師に回覧されている.医師会の講演会,催しなどには,会員でない行政の医師も参加している.市医勤務医会には,行政から3人の理事が参加しており,市立病院の院長が市医師会の副会長に就いている.これらのことを含めて,市医師会と市行政の風通しは非常によいといえる.
 1995年,大学生のオリンピックであるユニバーシアード福岡大会でも,行政からの医療上の協力要請に対して,医師会は,「この事業は市民が一体となって行う大事業であるから,医師会も市と一緒にやりますよ.協力という形でなく」と答えたと聞いている.競技初日,会場の医師の責任者は医師会長自身であった.このように,医師会と行政とは共同のスタンスであることが多い.
 とはいえ,保健医療について,両者の間でなかなか解決できない課題もないわけではない.お互いの主張の開きが大きいままのこともあるが,うまく解決してきたものもある.乳幼児検診,予防接種,成人検診など,医師会に委託という形で行政から事業をお願いしていることが実際には多い.事業にかかわる単価,補助金が政令市のなかでトップというわけでもない.医師会側から行政への強い要望もある.例えば,10カ月児健診委託事業の際は,タイミングよく,行政へ医師会から陳情書が出された.小児科の診療所で病児保育を始めたときは,議会での議員の質問が効果的であった.市民のためという原則があって,医師会と行政と議会の3者のあうんの呼吸が生きてきたと考えられている.平成9年度は,どのような形で前立腺がんの検診を始めるかの両者間の課題もある.

医師会の組織力拡大を

 世界保健機関(WHO)による健康の定義とは,身体的,精神的,社会的に良い状態(well-being)である.少子高齢化社会では,このwell-beingを“福祉”と考える人もいる.つまり,健康とは福祉である.さらに続けるなら,医療とは,保健であり,福祉である.
 行政の医師たちは組織の一員であることを日々かみしめている.組織の力があれば,1人の力がどれほど拡大できるかも日々よく知っている.
 医療の効果を最大限に発揮するには,医師会の力が大きいことが必要である.そのため,組織力の拡大,つまり加入率の増大が欠かせない.その鍵は勤務医にあると思われる.非会員の医師を,どんな形で会員にするかが今後の大きな課題として残っている.
 これからの高齢社会における,保健・医療・福祉の連携サービスの充実のためには,医師会の組織力とリーダーシップに,大きな期待が寄せられるのである.


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