日医ニュース 第863号(平成9年8月20日)

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勤務医座談会─その1
勤務医と地域医療

 現在,日医勤務医委員会は,諮問「地域医療における医療の機能分化―特に勤務医のあり方」の検討を行っている.今回の座談会は答申作成に向けて,地域で活躍している勤務医の意見を答申に反映させるべく企画したものである.

《出席者》

日本医師会勤務医委員会委員長・大阪市立住吉市民病院長
濱田 和孝(司会)
宮崎市郡医師会病院外科医長
島山 俊夫
盛岡赤十字病院第一小児科部長
寺井 泰彦
神戸中央市民病院副院長・消化器内科部長
藤堂 彰男
前橋赤十字病院副院長・脳神経外科部長・救急部長
宮崎 瑞穂
本荘第一病院消化器科長
村田  誠
岩美町国民健康保険岩美病院長
渡辺 賢司
日本医師会勤務医担当常任理事
津久江一郎

 津久江 本日は,お忙しいなかをお集まりいただきましてありがとうございます.「勤務医と地域医療」というテーマで座談会を企画しましたので,よろしくお願いいたします
 濱田 勤務医委員会委員長の濱田です.坪井会長から,「地域医療における医療の機能分化―特に勤務医のあり方―」という諮問をいただいて,それに向かっての議論をしておりますが,実際にいろいろとご苦労されている先生方のご意見を入れて,少しでも広い目でみた答申にしたいということで,こういうテーマを選ばせていただきました.
勤務医が地域医療にどういう役割を果たしているか

 濱田 それでは,勤務医が地域医療にどういう役割を果たしているか,あるいは病院が地域医療でどういう役割を果たしているかということをお話しいただきたいと思います.
 渡辺 私のところは町立病院ですので,地域医療そのものが仕事ということでやっています.今,私がいちばん考えているのは,生き残りをかけて地域医療にどう取り組むかということです.
 というのは,鳥取市が近いものですから,大きい病院と競合することでは意味がない.自己完結型の医療というのはとうてい不可能でして,郊外あるいは田舎という地域にあって.病因の“待つ医療”から,できるだけ外に出る医療をやっていかないとあぶないと感じております.
 病院の規模は,80床です.科としては,内科.外科,小児科,歯科,それから,特に,生き残りをかけるという意味で,痴呆を中心とした老年精神医療をやりたいので,精神科の先生に来ていただいています.将来的には,痴呆の施設を併せ持ちたいと思っております.
 村田 私のところは,本荘市由利郡1市10町で,だいたい対象人口100,000人強だと思います.
 病床は160床あり,そのほか老健施設が100床あります.それと,鳥海山の麓の鳥海町に診療所が3つありますが,そのうちの2診療所に毎日交代で医師を出しており,私が1カ所の所長をしております.
 規模としては,医師が常勤で19名で,内科13名,外科3名,整形外科・婦人科・眼科各1名で,急性疾患から慢性疾患まですべてやっているという状況です.
 また,鳥海町の診療所に行く場合でも,各科の医師が交代で行っており,1人の医師がずっといるわけではないので,足りない面もあるかもしれませんが,逆に,何曜日は外科の先生が来るから,その日に外科的な相談をということができますので,そういうメリットもあるのではないかと思っております.ですから,まさに地域医療そのものをやっている病院ということになると思います.
 宮崎 私の地域は前橋市内と近隣を併せて,2次医療圏として300,000〜400,000人ぐらいです.病床数は581床,医師数は80名ほどで,そのなかで救急に力を入れておりまして,市内には大きい病院がたくさんあり,病院同士の競合がかなり大きくなっています.
 病院の地域医療としての接点は救急医療ということで,最近は,特に,在宅医療をやっている方が急変で運びこまれるというようなことがあり,やはり在宅医療をやるうえには救急医療を充実させないと,単なる在宅だけですべて終わらせるというのは,なかなかむずかしいということを実感しております.
 島山 宮崎市にある医師会立の病院で,218床,常勤が24名です.宮崎市は周辺の人口を含めて400,000ぐらいですが,そのなかに600床ぐらいの県立病院がありまして,そこが三次救急をやっています.常勤医の大部分は医科大学から派遣されております.うちの病院は2次救急で,内科・外科,約70床ずつ,あと整形外科.産婦人科,放射線科という構成です.
 病院ができて14年になるのですけれども,なぜできたかというと,結局は,県立病院が敷居が高くて,開業の先生方が送りづらいということと救急のたらい回しの問題,宮崎市には市立病院がないなどの理由で,医師会として作らざるを得なかったという状況です.だから,電話1本で患者さんを引き受けるというのは,開院以来ずっと今に至るまで続いております.
 一般外来は置かず,紹介外来のみですので,外来は平均20人程度で,勤務医としては入院患者さんを診療すればいいという形態です.
 濱田 外来がほとんどないという非常にユニークな病院ですが,例えば,患者さんを紹介されてこられたら,外来はなしで,はじめから,すぐ入院というようになるわけですか.
 島山 ほとんどが入院依頼か,外来のCT検査依頼等の患者さんがほとんどで,こちらの外来でフォローする患者さんというのは非常に少ない.原則として,紹介を受けて治療が終われば,また紹介元へ返すということで,病院自体では,患者さんに特殊な事情がなければフォローせず,患者さんを取られるということがないということです.県立病院とか大学に紹介すると,患者さんは帰ってこないということがあって,そういう形態にしております.
 濱田 外来なしで紹介を主体で受け入れるという形はどうですか.
 島山 自分が手術した患者さんをずっと診られないということはありますが,気をつけたい人は,外来にしています.少し物足りない面があるかもしれませんが,以前勤務した県立病院では,外来業務もけっこう負担になっていたものですから,解放された面もあります.
 藤堂 主治医の先生は病院の先生だけなのか,それとも紹介された先生もいっしょに診られるのか,その辺はどうでしょうか.
 島山 共同診療の形態を取っております.手術に来られる先生もいらっしゃいます.
 村田 当然,診療所の先生の評判はよくなると思うのですけれども,患者さんはどう考えておられるのでしょうか.うちの病院でも,帰そうとしても,帰らない人がいますが.
 島山 そういう方も一部いらっしゃいますが,いったんは紹介元に帰るようにいっています.
 濱田 医療法改正案にある地域医療支援病院の典型的なケースのような感じがします.
 寺井 盛岡赤十字病院は,岩手県の真ん中にありまして,498床で医師数は約50名です.ベッドの稼働率が95%前後,外来が1,200名前後です.
 盛岡の医療圏は300,000から400,000人前後で,規模では岩手医科大学.県立中央病院,3番目がわれわれの赤十字病院という形です.
 こういう状況のなかで,地域医療で特色を出すため,周産期医療に力を入れております.NICUを20床持っております.
 あとは,救急医療に力を入れており,産婦人科,内科系,外科系の3人当直で,小児科は4人でオンコールでやっております.
 ただ,近くに岩手医大と県立中央病院がありますので,そういうなかでの位置づけは,うちの病院も非常にむずかしい状況にあるのではないかと思っております.
 藤堂 神戸市は人口1420,000で,医療施設が1,367,病院数が90ございます.私どもの病院は中央区にあり,医療機関が比較的密集しているところです.
 病院は1,000床で,神戸市では,神戸大学病院が三次救急を行っている以外は,当院がただ1つの救命救急センターで,一次から二次まで全部救急をやっており,三次救急に関しては,当院がほとんど引き受けているという状況です.
 医師の数は200名で,そのうち常勤医は134名,研修医が32名,専攻医が35名で,専攻医というのは,初期研修が済んでから,自分の希望する専門科を3年間専門医としての研鑽をするといったシステムになっております.
 救急外来患者が年間32,000人ぐらいいまして,そのうち救急入院が3,470件ですから,救急外来のうちの入院は,だいたい11%ぐらいです.そのうち,入院患者で,患者紹介率というのは17%ぐらいです.一方,一般外来患者数は,震災前が1日2,600名,それが震災後はちょっと減り2,300名ぐらいです.だいたい入院患者のベッド占有率は96%ぐらいです.
 そんな状況で,救急病棟が21床,救命救急センター全体として,ICU,CCUを含め30床ございます.すぐ満床になりますから,その分はすべて基本病棟に3日以内に引き上げることによって,救急病棟にたえず空床をつくっておくという方針でやっております.


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