日医ニュース 第879号(平成10年4月20日)

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平成8・9年度日本医師会勤務医委員会答申の概要
「地域医療における医療の機能分化
─特に勤務医の在り方─」

答申概要(2)

IV 医療機能からみた機能分化の問題

 医療には,一般的な医療の他に,いくつかの対応しなければならない分野が存在する.それらは,(1)高度・特殊医療(2)救急医療(3)在宅医療(4)僻地・離島医療(5)地域福祉などであり,それぞれに問題点を抱えている.
 政策上,財政上の支援も必要であるが,勤務医も各分野に関心を持ち,協力しなければならない.

V 機能分化と連携の推進

 分化された医療機能がいっそう効果的に発揮されるには,連携が重要であり,そのためには,機能が公開されていなくてはならない.
 医療機能には,医師機能と医療施設機能があり,それぞれの機能の公開と情報の交信が必要となる.特に,病院勤務医は,専門機能の公開に積極性を持ち,自己研鑽に努めなければならない.
 施設機能のうち,特に,設備や機器の公開は,共同利用を含む連携の在り方として,また,開放型病床は,共同診療の場として,医療資源の有効利用という面からも重要な点である.
 また,地域内チーム医療体制を確立すべく,地域完結型を目標に,医療機能の公開を基盤にして連携を推進する.そのためには,「地域医療連携室」を病院内に設置することにより,地域内医療機関の間で医療情報の相互交信を行い,それぞれの医療機能に対応した医療連携を図ることが可能となる.

VI 勤務医の在り方

1,役割の認識と資質の向上
 良い医療を提供するためには,医師として基本的な倫理観を持つことは当然であり,患者のQOLを配慮し,優れた医療技術を発揮できる能力,全人的医療ができる資質,地域医療を視野に入れた保健・福祉を理解できる資質,チーム医療のなかでリーダーとしての資質などが医師に求められている.その意味からも,勤務医は日医の生涯教育制度に参加する必要がある.
2,自己完結型から地域医療システム型への理解
 現在の医療ニーズに応えるためには,自己完結型な考えは通用しない.病院が機能別に区分されれば,なおさらのこと,各医療施設はお互いに連携しながら,効率的な医療システムのなかで,分化と統合を主体とした医療を展開することになる.
 地域医療連携型への解決のキーを握っているのは住民であるので,医師が患者に積極的に病診連携,病病連携の啓発を行い,そのメリットを患者に実感してもらうことである.
3,総合的診療能力の向上
 高度先進医療と並行して,総合診療の質の向上を図らなければならない.そのためには,プライマリ・ケア,救急医療など総合的診療分野に対応できる医師の育成が重要である.
 卒後臨床研修の到達目標として,救急医療を必修とし,すべての臨床医を救急初療に対応できるように育成する.一定の総合臨床能力を有する臨床医は,高度先進医療の専門医と同等に評価されるべきである.
4,コミュニケーション・スキルの学習
 人間をその対象とする医療では,特に,人間関係の醸成が重要である.そのためには,自己開示と傾聴能力が基礎となり,常に他に対し,共感的理解を示す態度が必要となる,共感的理解とは,相手の価値観を心から理解し,受け入れることである.価値観とは,その人が事に当たって判断するための物差しであり,人生観である.
 患者の価値観を大切にするところに,真のインフォームド・コンセントが生まれ,看護婦をはじめとする他の医療関連職種の人たちの価値観や目標を大切にするところから,真のパートナーシップが芽生え,医療チームとしての協調,協力関係のもと,良い医療へとつながるものと信ずる.
 医学教育のなかにも,卒後研修や生涯教育のなかにも,コミュニケーション・スキルの学習ができる機運の醸成と,その実践が望まれる.

おわりに

 わが国は成熟化社会に入り,豊かな国づくりが目指されているところである.国の発展の基本は健康な国民にあるので,国の将来を考えるときには,まず,国民の理想とする医療がいかなるものであるかを討議,検討し,今後の医療の在り方を定めたうえで,政策が行われなければならない.
 充実してきた医療をすべての国民が享受するためには,一定の財政基盤と,医療に従事するものすべてに患者本位の医療を提供しようとする意識が必要である.
 勤務医は自己の専門領域の研鑽とともに,医療関連職種のリーダーとしての役割を自覚し,人間関係の醸成に努め,自己を高め,社会人として成熟すべきであろう.


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