島根県は東西に細長く,北は日本海に面しており,海上五〇キロメートル北方には隠岐諸島がある.このような地理的条件もあり,特に離島,中山間地域においては,長期間にわたり医師の確保に困難を極め,医療過疎の状態が続いていた.
平成四年四月,島根県立中央病院に新病院長を迎え,「地域医療はそこで生活する地域住民のための生活支援活動であり,地域医療の主人公は地域住民である」という理念のもとに,矢継ぎ早に地域医療支援システムに抜本的改革案が提示された.その改革案は年次的に確実に実施に移され,現在では島根県方式として,広く全国的に評価されている.
現在まで制度化され,実践されている「島根県における地域医療支援システム」の代表的事例について年次的に紹介する.
平成四年八月,島根県医師会,島根医科大学,島根県立中央病院,二次医療圏域市町村および保健所が一堂に会し,おのおのの地域医療の現状,課題,要望等についてお互いに理解を深め,へき地に勤務する医師を確保することを主目的として,「島根県へき地勤務医師確保協議会」が設置された.
その結果,「地域住民のニーズに応える」という,地域医療にとってもっとも重要な概念が本協議会で理解され,平成五年度から島根医科大学と島根県立中央病院が医師派遣に応じることになった.
現在では,約四十名の医師が本協議会の決定に基づいて派遣されている.
平成五年四月,地域医療支援の拠点として,島根県立中央病院に地域医療科が設立され,医療局組織に組み入れられた.
その結果,島根県立中央病院勤務の全医師が地域医療を担うことが義務づけられ,自治医大卒業医師以外の医師も地域に派遣されることになった.地域医療科は年に二回「定例会」を開催し,各地域における種々の情報を交換しあい,問題点の解決策や地域医療充実のための方策を検討している.
また,平成六年には,「総合診療科」が開設され,初診患者の一般診療,あるいは検診等の予防医学的診療を行うとともに,医学教育の中心的役割を担っている.総合診療科は地域医療科と協力して,地域医療についての教育をはじめ,診療応援などにも積極的に関わっている.
平成五年七月,県内公的医療機関に対する医療設備等の整備費助成を目的として,島根県知事が会長となり,「島根県地域医療推進協会」が設立された.県単位で毎年このような助成金を予算化する制度は,全国でも例の少ない画期的なことであり,確実に地域医療の充実が図られている.
平成七年四月より,「一定の地域においてその地域の中核病院を中心として,周辺の診療所と病診連携を進め,医師,医療機器等の医療資源の交流を図るシステム」と定義される「地域医療支援ブロック制度」が実施された.この制度により,診療所勤務医師は中核病院から代診が受けられ,また,研修出張なども可能となった.
現在,隠岐島前,隠岐島後,邑智そして頓原の四ブロックで施行されているが,将来的には全県的に実施を予定している.
救急医療支援も地域医療支援の重要な要素である.県下唯一のNICUが設置されていることから,従前より小児科医師添乗のドクターズ・カーによる未熟児救急搬送が行われており,最近では母体搬送もシステム化されつつある.
また,平成八年十月からは,隠岐を対象にドクターズ・ヘリコプターの運用が開始された.ドクターズ・ヘリコプターには,島根県立中央病院の医師が添乗することにより,救急患者搬送時の離島での医師不在が全面的に解消されることになった.
この制度は平成九年八月より開始され,「島根県へき地勤務医師確保協議会」との密接な連携のもとに運営され,県医師会が医師の求人および求職情報の収集,斡旋の拠点となり,機能している.
島根県立中央病院は,本年八月,新病院へ移転する.
新病院においては,診療録や画像をはじめとして,すべての病院運営システムについていわゆる「電子カルテ・システム」として電子機能化されることになっている.この「電子カルテ・システム」は,単に病院内だけでなく,地域医療におけるネットワークの基本的要素であり,患者情報をはじめ多分野の情報交換のために導入される.
また,従来以上に地域の保健・福祉分野との密接な連携を図るために地域医療支援部門が新設されること,屋上ヘリポートが開設されることなど,新病院の運営体制は地域医療の向上充実にも着目して企図されたものであり,島根県における地域医療は,今後さらに発展するものと考えられる.
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