日医ニュース 第937号(平成12年9月20日)
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診療情報の共有化
新宿区地域における包括的地域ケアシステム
患者単位で一元的に情報管理
少子高齢化社会を迎え,医療費抑制や効率的な医療を考えるうえで,病診連携や病病連携の必要性が高まっている.その充実のためには,患者の医療情報が病院間で正確に伝わることが前提になる.そのためには,患者単位で患者に関する多数の情報を一元的に管理・集積する必要がある.保健所,診療所,病院,地域全体における医療情報を一元化したデータベースに登録する電子カルテである.
新宿区では,新宿区医師会を中心に「新宿区地域における包括的地域ケアシステム」という名称の地域医療用患者データベースの構築を始めた.内容は,訪問看護婦や診療所医師と中核病院医師とが同一患者の情報を共有し,医療の効率化を行うとともに,高齢者の地域社会への参加の促進と,災害時における有意義な情報提供を目指すものである.
病・診・看護連携システム
新宿区医師会,地域医療支援病院,訪問看護ステーションに,電子カルテデータベースと連動したWWWサーバを設置し,それぞれの施設で発生した患者の情報を患者ホームページとして,個々の病診連携サーバで管理する.それぞれの施設の情報である一人の患者に対して各施設で実施した診療や診断の内容は,同一画面上で参照することができる.
また,患者のホームページを参照する医療スタッフを認証し,許可された医師や看護婦しか患者情報を参照できないようにする.すなわち,患者情報へのアクセスは病院単位で制御し,患者が受診した病院のみから閲覧可能とし,受診したことがない病院からは,閲覧できないようにする.また,診療所と在宅患者をTV電話で接続し,在宅患者の状態を観察し,この病診連携システムに記録することができる.さらに,学校と診療所をTV電話で接続し,校内で発生した患者の診断を診療所が支援することも可能となる.
本システムにより,病院,診療所の連携による医療の分業,一般病院と長期療養型病院の連携による医療・福祉の一貫性の確保,二次医療圏における患者カルテの共有化を促進することが予測される.また,かかりつけ医制度の普及,同一地域での医療の重複を省くことによる医療費の抑制,同時併用薬の相互作用による薬害の予防,一患者/一カルテ/一地域の実現による患者の利便性の向上,情報の一元化による災害時の医療行為円滑化を図ることが可能になる.
これにより,包括的地域ケアの要となる地域医療の仕組みを,わが国ではじめて構築した.包括的地域ケアシステムは,Webブラウザで動いており,ホームページを見られる端末がありさえすれば動く.この包括的地域ケアシステムは,ネットワーク上の画面で,各患者の診断名,所見,CTや内視鏡などの各種医用画像,臨床検査データ,処方や注射内容などが閲覧できるようになっている.本システムを活用すれば,患者への薬の二重投与が防げる.本来,飲み合わせ禁止薬を,別受診している病院からの処方を防止できる.
災害時の利用
新宿区医師会にWWWサーバを設置し,新宿区やボランティア団体にホームページを開放する.これにより,各団体が発信するさまざまな防災情報や災害情報を,インターネットを介して各家庭や被災者に提供することができる.また,避難所として利用される学校にTV電話を設置することで,避難所同士の情報交換が可能となる.
このシステムは,前述した病診連携システムと連動可能であり,災害時にはセキュリティレベルを可変させることで,避難場所から患者のカルテの検索閲覧を可能にする.したがって,日常診療の常用薬やアレルギー情報など避難所において患者情報を取得することによって,その避難所で必要な薬剤などの特定が可能になり,救援物資や薬剤の在庫,各避難所の避難者名簿,必要な医療資源などの情報を提供し,災害時のパニックの抑制や救援物資の適切な配分を実施することが可能となる.
また,避難所として利用される学校にTV電話を設置したことで,避難所同士の情報交換も可能となり,避難所生活における物資の融通やボランティアの適切な配置が容易になる.
プライバシー保護とセキュリティ
本システムでは,診療記録や画像といった個人情報を扱うので,個人情報の保護を図ることが必須である.統合型セキュリティ通信規格と呼ばれる規格を採用することで,セキュリティを担保した.セキュリティを維持するためには,技術的な対策と運用面での対策の両面が備わっていなければならないが,新宿区で採用した統合化セキュリティなど,ネットワークの分野における問題は技術面ではほぼ解決されている.
その一方で,運用面に関しては,利用者側の情報リテラシーの問題があって,情報漏洩の危険が皆無とはいえない.現在,政府の高度情報通信社会推進本部において,プライバシー等に関する法的な整備,情報通信分野での基盤整備等が検討されている.
最後に
今後,新宿区のような一患者/一カルテ/一地域という試みが増えてくるであろう.さらには,医療・福祉・介護の統合や災害,教育システムとも連動させることが可能である.このように,地域医療において,電子カルテは情報ネットワークと併用することで「情報の共有」という面で,大きな役割を果たすと思われる.
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