日医ニュース 第939号(平成12年10月20日)

勤務医のページ

病院と女性医師

増加する女性医師

 本邦でも年々,女性医師の割合が増加している.一九七〇年代後半の女性医師の割合は一〇%以下,それから二十年で二〇%近くとなり,本年の医師国家試験合格者全体では,三〇%を超えている.国公立の大学では,学年により,女子医学生の割合が過半数を占めるところも出てきている.
 しかしながら,私立大学のなかには,女性の入学者を制限しているところもあり,また,公私にかかわらず,病院の診療科によっては,女性の入局者を制限しているところがあるのも事実である.
 なぜ,そうしたことが起こるのか?また,どうすればよいのか?考えてみたい.

妊娠・出産・育児の負担

 妊娠,出産は,母体に多大なストレスを持たらす.思考,判断,実行能力も,残念ながら,この時期には低迷する.医師の仕事は激務であることから,妊娠は容易に,切迫流早産などの異常状態へと移行する可能性がある.
 したがって,産休に入る以前から病欠や欠勤,入院などの可能性があり,労働力として完全には当てにできないのは事実である.
 しかも,保育園は慢性的に不足しており,産休明けに保育園にすぐに入れるチャンスはほとんどない.院内託児所を設けている病院は少なく,あってもほとんどがナースのための施設である.
 また,保育園に預けられたとしても,急な発熱や予期せぬ事態,感染症やその治癒過程で法的に通園が禁止されている疾患などでは,託児所では対応できない.
 就学年齢ともなれば,子どもの帰宅時間は早く,学校行事に参加する親の時間は増加し,親子関係の形成が重要と叫ばれる世情からも,子育てに割く時間のために制約は大きい.
 こうしたことに対し,国としては遅まきながら,労働省が二年前から働く女性のために,「母性健康管理指導事項連絡カード」を作成しているが,責任ある仕事であるほど,このカードは実際に使用されにくい.
 さらに,雇う側に明確な罰則規定がないことも,これを助長している.子育て期間の支援は少なく,夫婦には,二重三重の子育てへの対応を余儀なくされる.
 産休以外に,育児休暇を設ける病院は増加しているが,子育ての間の研修支援がほとんどないことから,育児休暇後の常勤への復帰は事実上,むずかしいのが現状である.

男性も応分の負担ができますか?

 こうした状況のなかで,妻の研修のために,男性が代わって育児休暇を申請できますか?男性が育児休暇を申請した時,管理者は速やかに許可できますか?子どもの緊急事態,あるいは,学校行事への参加のために女性医師ばかりでなく,男性医師にも欠勤や早退遅刻をすぐに許可できますか?時間外に行うカンファレンスや会議の欠席は,毎回許可できますか?子育て中の男性,あるいは,女性の当直業務を削減できますか?
 こうしたことは,当然のことと思われるが,これらを実行するには,まだまだ上級医師や病院管理者の認識は足りないといわざるを得ない.
 これに替わり,実際には,妊娠出産子育ては女性の責務との考えから,女性医師の雇用を制限する,退職をほのめかすなどの処置がとられやすいのではないか?
 これらは極めて安易な方策で,現在のところ,日本ではそのために訴訟を起こされることもないのである.あるいは,これらに直面しているうちに,女性医師自らやる気を失い,離職,無職,よくて非常勤から研究生,ないしは,アルバイトなどを選択することになるのである.

実現可能な支援策

 実現可能な支援を考えてみたい.
 近年,託児室を併設した学会がみられるようになっている.将来は,女性が学会に出席する間は,男性が休んで育児をするなどの構図もみられることになるかもしれないが,当面はこの方向で,託児室併設の学会を増やしていってほしい.
 妊娠中,あるいは,育児中の一定期間は,当直の削減,フレックスタイム制をとり,個人の事情により,午前あるいは午後のみ,一日置きなどの変則勤務を確立してほしい.出産後のすべての女性が,完全な育児休暇を取りたいとは限らないのである.
 定年後の勤務医,子育て終了後の女性医師などの人材バンクを設置し,代替え医師や業務のシェアの制度を発足させるべきである.
 育児休暇中や学会への参加ができないもののために,医学や医療のup to dateな考え方や問題点,臨床カンファレンスの資料の送付,ビデオ学習,インターネットでの学習などのシステムを確立すべきである.もちろん,保育園の拡充や時間外+病児保育の充実も必要である.
 妊娠出産育児の期間は長い一生からみれば短く,その時,女性がどんなに臨床,研究面で遅れているように見えても,必ず飛躍する時期を迎えられることを女性医師自身も周囲の人も理解していただきたい.
 今から二十年以上も前から,現在弘前大学名誉教授の品川信良先生は女性医師の問題を予見し,女性医師の育児支援システムの必要性を強調されていた.
 女性医師の役割が重要になってきている現在,品川先生が示されたように,女性医師の力を十分に発揮できるよう,具体的な施策を実行することが求められている.


日医ニュース目次へ