日医ニュース 第941号(平成12年11月20日)

勤務医のページ

小児救急医療の問題点

小児救急医療体制の危機

 小児科医の高齢化は救急離れを招き,地域の小児救急医療を支えられなくなった.
 さらに,少子化,小児医療の不採算性により小児科病床を削減,ついには閉鎖に至る病院もでてきた.その結果,行き場を失った救急患者は大病院に集中するようになった.
 病院小児科医はより激務となり,新参医師から敬遠され,小児救急医療の担い手は下降線をたどった.
 一方,少子化が進むなかで,むしろ,親の小児救急に対するニーズは高まる一方である.

初期救急医療―夕方,深夜は空白

 平成八年,厚生科学研究「小児救急のあり方に関する研究」班は,小児救急医療の現状を明らかにし,改善を要望した.
 初期救急を担う夜間急患診療所および休日在宅当番医の診療時間は,ほとんどの地域において,夕方の五時から七時,および深夜は空白で,この時間帯は二次医療機関によってカバーされていた.

二次救急医療―小児科医毎日当直は16%

 二次病院における小児科救急は,半数以上が病院当直+オンコール制である.毎日小児科医当直の施設は,わずか一六%に過ぎない.(表参照)

小児科標榜病院施設における当直体制調査
小児科当直体制
施設数(n=608)
連日当直体制
一部曜日のみ当直
病院全体当直+オンコールあり
病院全体当直+オンコールなし
当直なし、待機制あり
その他
98
38
321
40
88
23
(16.1%)
(6.3%)
(52.8%)
(6.6%)
(14.5%)
(3.8%)
「小児救急医療のあり方に関する研究」(1997)

三次救急医療―小児科医常勤の救命救急センターは12%

 回答のあった九十一救命救急センター中,小児科医常勤はわずか十一(一二%)施設に過ぎず,多くの施設は一般救急医か,本院小児科医が要請に応じて対応する体制であった.十一施設では,小児科救急にまったく対応していないとの回答であった.
 小児専用ICU(PICU)を設置していたのは,十五施設(一九・五%)であった.

小児救急医療支援事業 起死回生なるか 実施はわずか8都道県 23医療圏

 厚生省は,この危機的状況を打開するため,輪番制による小児の二次救急医療体制の充実を図り,本事業を立ち上げた.
 しかし,厚生科学研究の調査によれば,初年度本事業を実施したのは三百五十五の二次医療圏中,わずか八地域,二十三医療圏(北海道一,岩手一,東京十二,神奈川三,兵庫一,奈良三,広島一,高知一)に過ぎなかった.
 実施を見送った理由として,病院小児科医不足,小児救急標榜病院不足,小児救急医療体制不備,小児医療の不採算性,自治体の財源難などを挙げたが,最大の要因は,実施機関となるべき小児科医会,小児科地方会の半数が,本事業を認知していないことが明らかになった.

住民の期待に応える 岩手・盛岡医療圏

 本事業を実施した数少ない岩手県・盛岡医療圏では,三年前,限られた病院小児科を有効に活用し,救急入院病床を確保する目的で県および市当局と折衝・検討し準備を重ねてきた.
 昨年四月,本事業の立ち上げと同時に七病院群による小児二次救急病院群輪番制をスタートさせ,一年を経過した.
 患者数で非輪番日が輪番日を上回る病院もあり,問題はあるが,入院受け入れ病院,初期救急医療の支援が明確となり,住民の期待に答えている.
 本事業推進には地域への情報の徹底,自治体の積極的対応,小児科医会および地方会の推進力を期待したい.

初期救急医療の充実を

 今後,輪番制がさらに有効に機能するには,休日在宅当番医,夜間急患診療所など診療空白時間の解消など初期救急の充実が望まれる.
 二十一世紀を担う子どもたちの健全な育成のためにも,小児救急医療は小児科医によって堅持されなければならない.
 小児救急医療に吹き始めた順風がさらに追い風になるよう,今こそ,小児科医は結束し,勤務医および開業医が役割分担を再認識し,スクラムを組んでいけば,救急医療のみならず小児医療全体に光明が見出されるだろう.


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