日医ニュース 第943号(平成12年12月20日)
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「21世紀の豊かな地域社会へ向けての勤務医の役割」 をメインテーマに |
日医主催による「平成十二年度全国医師会勤務医部会連絡協議会」が,鳥取県医師会の担当により,十月二十八日,鳥取市において盛大に開催された.「二十一世紀の豊かな地域社会へ向けての勤務医の役割」をメインテーマに,全国医師会の役員,勤務医部会関係者など約三百六十名が参加した.
十月六日に起きた「鳥取県西部地震」で開催を心配する声が聞かれたが,鳥取市は被害がまったくなく,予定どおり開催された.
開会式で主催者としてあいさつした坪井栄孝会長が,「地震被災者に対する医療提供に感謝するとともに一日も早い復興を願う」と述べたのに対し,来賓としてあいさつした鳥取県の片山知事は,「復興は着実に進んでいる」と全国からの見舞いに対して感謝の意を表した.
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特別講演(1)では,坪井会長が「二十一世紀医療のグランドデザイン」と題して講演した.
そのなかで坪井会長は,二十一世紀に望まれる病院のあり方を検討すること,官僚主導からの脱却が必要で,われわれ自身の医療を提供するべきであること,国民皆保険制度とフリーアクセスは絶対堅持すること,老人医療費改革では多少の痛みが必要であること,グランドデザインは医療構造改革構想の一環であること,などについて触れ,医療費財源としての「自立投資」の考え方を説明し,理解を求めた.
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日医勤務医委員会の池田俊彦委員長より,平成十二・十三年度の会長からの諮問「二十一世紀における勤務医のあり方」に対する委員会の協議経過並びに全国の勤務医の医師会活動参加状況などについて報告がなされた.
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鳥取県勤務医アンケート調査報告で,鳥取県医師会の生駒尚秋理事は,「勤務医全体に占める女性の割合は一一・四%だが,医学部六年生では過半数にもなる.そのため,今後増加するであろう女性医師の進出にあたり,出産・育児などに対する体制整備が求められる」と述べ,過去開催県の勤務医調査結果と比較しながら鳥取県の状況について報告がなされた.
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特別講演(2)では,日本唯一の研究施設“アリドドーム”を有する地元,鳥取大学乾燥地研究センターの稲永忍教授(センター長)から「地球の砂漠化とその対処」と題して,砂漠化の現状,世界各国の乾燥地が抱える問題点などについての講演があった.
「砂漠化の最大原因は,生態系を無視した農牧業や森林伐採であり,その対処として,農・牧・林業が関連した持続的な生物生産システムに変えることが必要である」と述べ,人間活動と自然との調和を訴えた.
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シンポジウムは,「新しい地域社会と勤務医」(座長:能勢隆之鳥取大学医学部長)をテーマに地元のシンポジスト五人から,(1)介護保険と地域医療福祉(渡辺憲),(2)地域小中規模自治体病院の立場(堀江裕),(3)三次救急医療担当病院の立場(山家武),(4)特定機能病院・医育機関(中島健二),(5)二十一世紀の新しい地域保健(大城陽子)について,それぞれ発表がなされ,引き続いて総合討論が行われた.
奇しくも鳥取県西部地震後三週間という時期,しかも,シンポジストのうち三名が被害を受けた地域の担当者ということで,震災直後の地域における緊密な医療連携体制,情報システム,被災住民の心のケアの重要性等についての追加発言があった.
総合討論では,「勤務医と開業医が対峙する時代ではなく,医師が地域社会に対して何ができるかの時代である」「医療団体が仲たがいするようでは,組織は弱体化してしまう」「勤務医の過酷な勤務状況を理解してほしい」などの意見がフロアから出された.
最後に,星北斗常任理事が,(1)分断・孤立・連携,(2)意識の改革,(3)コミュニケーションの三点について,「医学教育の縦割行政(文部省と厚生省)が混乱を招いている.勤務医が地域社会あるいは医師会に対して何ができるのか,自ら参加していくことへの意識改革が必要である.災害時などの非常時にはコミュニケーションが重要であり,これが不足すると地域社会は不安に陥ってしまう」と述べ,「国民が安心して生活できることが一番重要であり,医師はその使命を担っている」とシンポジウムをまとめた.