日医ニュース 第947号(平成13年2月20日)

勤務医のひろば
近ごろ思うこと


私が勤務医になって三十五年が経ったが,世の中が大きく変動するなかで,医療界においても極めて大きく変動したことを実感している.特に,病院における医療事故,医療ミスが大きな問題となり,マスコミの論調に合わせ,医師はともかく看護婦までも賠償保険に入らなければならない状態では,医師や看護婦を志す若者が減少してくるのを心配しているのは,私だけであろうか.
 医療の世界も内容が高度複雑になり,従来のトレンドでは考えられないような事故も発生しており,その対応も一般企業で取り組んでいるリスクマネジメントレベルのものが求められており,対策を講じることで早急に国民の信頼を得ることが必要だと痛感している.
 しかし,国民一人当たりの医療費でみても,アメリカの半分の水準で行っている今日の日本の医療事情のもとでは,欧米並みの医療水準を実行することは,極めて困難と思われる.確かに医療費は増大しているが,対GDP比からみて,日本の総医療費は世界の十九番目ということからみても,あまりにも低すぎるように思われる.
 世界に類をみない高齢化社会を迎え,入院患者も高齢化している現状があり,従来からの医療供給体制では,病院運営は困難を極めている.その対応には,看護婦,介護人など,医療従事者の数が増加しなければ十分な医療ができなくなってきている.そのしわ寄せが,病院の従業員に重くのしかかってきている.
 世界に冠たる高齢化社会を作り上げた国民皆保険制度の維持を図りながら,良質で安全な医療には経費がかかることを理解してもらうような国民への働きかけが,医療界に不足しているように思われる.そのうえで,国庫負担の増加か,国民負担の増加しか方法はないわけであるから,国民に審判を問う時期にきているといえる.

(日本鋼管(株)福山病院長 吉田智郎)


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