日医ニュース 第951号(平成13年4月20日)

勤務医のページ

病院の機能評価の視点

 人々の権利とQOLを中心におく機能の総合性と患者の安全を確保する質の充実が,病院機能に強く求められている.それを実際の臨床の場に生かすには,病院として,あるいは勤務医として,従来から病院機能に根付いてきたdiseased orientedの価値観に基づいた質を見直し,構造的にも機能的にも見直し,改善を図ることが重要な課題となる.病院機能の質を評価する場合の視点として,組織医療としての総合性の質と患者の安全を確保する病院機能のあり方を重視するゆえんである.
 平成七年,第三者による医療機能評価を目的として発足した日本医療機能評価機構は,これからの病院医療のあり方を視点に置いて,表に示すような六領域を設け,評価項目が設定された(表).以来,五年を経過したが,医療を巡ってpatient-orientedに基づく質を重視する傾向はますます高まっている.日本医療機能評価機構もその重要性を認識し,二〇〇二年(平成十四年)をめどに評価体系の基本的な見直しを進めている.
 改訂される新評価領域案は表に示すように,「患者の権利と安全の確保(仮称)」と「療養環境と患者サービス(仮称)」が領域として新たに設けられる予定である(表).
また,他の領域や病院種別についても,これからの課題に配慮した改訂が図られている.
 ここでは,各領域の主な点について,触れてみたいと思う.

表:病院機能評価の対象領域(日本医療機能評価機構)
現行
改定検討案
1.病院の理念と組織的基盤
2.地域ニーズの反映
3.診療の質の確保
4.看護の適切な提供
5.患者の満足と安心
6.病院運営管理の合理性
1.病院の理念と組織的基盤
2.患者の権利と安全の確保
3.医療環境と患者サービス
4.診療の質の確保
5.看護の適切な提供
6.病院運営管理の合理性

病院の組織的基盤と地域性

 医療法の改定により,日本医療機能評価機構の認定証を取得したことを広告できることが決定された.それとは別に,インターネット等による病院機能の情報提供は地域に開かれた病院として,また,地域の人々の選択に応える病院機能として,今後,重要性を増すことは確実である.病院としての積極的な対策が望まれる.

患者の権利と安全の確保

 医療技術の進歩に並行して,患者の権利を尊重する姿勢を明確にし,患者の安全性を常に点検し,充実を図るシステムを確立することは,病院機能にとって当然の義務である.なかでも,インフォームド・コンセントの実施,情報開示に対する病院としての基本姿勢の確立,医療事故防止と事故発生時に的確に対応できる管理体制と職員一人ひとりの責任感の育成は,重要な条件となる.これを機会に評価体系の充実が,わが国の安全文化の成熟に指導的役割を果たすことを心から期待したい.

医療環境と患者サービス

 入院患者の居住性への配慮は,患者のQOLを確保するためには欠かせない機能である.従来,医療主導型の病院では軽視されがちであったが,患者の信頼と選択に応えるために安全性の確保と併せて重要性を増す課題である.

診療の質の確保

 診療の質を評価するうえで,職能(域)別でなく,患者の診療経過を視点において質を評価する手法の導入は,病院機能に特有な専門性やレベルの違いを超えて診療の総合能力を評価し,質の向上に繋ぐうえで有力である.診療のoutcome評価に道を開く可能性も大きい.evidence-based qualityの具体的な指標については,各国で鋭意研究が進められている.今年のInt. J. Q.H.C.. (12:6,2001)に,これらのガイドラインが専門性,患者の認識,文化や社会状況の違い,経済性などの理由で臨床的に有効に活用されていないことが問題視されていた.評価方法としての量的評価の問題点と,質的評価がもつ意義を改めて認識しておく必要がある.わが国では,量的評価の基準となるデータバンクの確立が先決である.

看護の適切な提供

 これから重要視されてくるのは,チーム医療の核となる看護の質の充実である.診療経過を通して,各職域間の連携システムの確立と患者一人ひとりを有機的かつ安全に支える具体的な看護機能の充実は,いっそう重視すべき課題である.

病院運営管理の合理性

 経営危機が深まるなかで,病院機能の質を確保することは,運営の管理能力に負うところが大きい.業務の効率化,統計資料の作成など,質的管理を支える力量が問われるところである.
また,患者の安全を確保するための施設・設備の充実と,今後,増加が予測される訴訟問題への的確な対応のあり方を確立することも必須の課題であると思われる.

むすび

 社会の情報化が急速に進むなかで,医療を受ける側との間に質についての価値観を共有することは,医療社会にとって重要な課題である.そのためには,組織医療としての病院機能の質の標準化と,評価による質の向上と改善を図ることの必要性が増すことは必定である.それを促進していくことが,将来に向けて厳しい医療社会に生きる道と考える.


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