国民に良質な医療を提供するためには,それを担う医師が適切な研修を受け,基本的臨床能力を身に付けることが不可欠である.このため,医師免許取得後に臨床研修を必修化することは,きわめて重要な課題である.
平成十六年度から卒後臨床研修が必修化されることになった.しかしながら,卒後臨床研修を単に必修化するだけで,その趣旨が十分に生かされなければ,良い医療を提供することはできない.
真にわが国の医療をより良いものにするためには,研修の質の充実を図ることが重要であり,このことについて真摯に検討する必要がある.三年後に迫ったこの時期,研修内容の充実,研修体制の環境整備等に幅広いコンセンサスを得ているであろうか.戦後取り入れられたインターン制度の弊害を,二度と繰り返さないような制度にしなければならない.
本欄では,卒後臨床研修が必修化されるに当たっての,今後の課題・問題点について,考えてみたい.
研修医が,研修に専念できるような処遇の改善が必要であることは,論を待たない.東京圏の私立大学附属病院の研修医は,病院から一カ月数万円の支給しかなく,生活のためにアルバイトをせざるを得ない状況であり,研修に専念できる環境ではない.
研修の必修化後二年間の研修を安定した環境で行うためには,財源問題の解決が必要である.
また,研修期間中,ローテートで病院間を移動する研修医は,慣れない研修環境と諸手続きで疲れてしまわないだろうか.これは,医療事故へつながりかねない.
このため,各研修病院に設置されるべき「卒後臨床研修センター」(以下,センター)の役割が重要となる.研修医養成費は,病院群で研修中であっても,「センター」で一括管理のうえ,登録された研修医に支給すべきであろう.健康保険等も同様である.
研修期間中の身分は,「病院長」または「センター」直属とし,非入局とすべきである.入局すると医局の影響が及び,研修に専念できないことも考えられ,インターン制度の轍を踏むことになるからである.
基本的臨床能力の獲得を目指した研修指導のためには,指導医の養成や研修指導に関するさまざまな企画が必要であり,そのための経費も予算化する必要がある.
臨床研修の効果を上げるためには,研修目標を定め,それに基づいた行動目標を立てなければならない.目標には,昨今の医療事故の頻発に対し,患者の安全管理教育を加える必要がある.行動目標に対しては,定期的に評価を行い,フィードバックして改善に努め,研修内容の充実を図らねばならない.
研修方式は,これまで努力目標とされていた総合診療方式(スーパーローテート)による研修が基本となる.患者を全人的に診るためには,幅広い基本的診療能力,患者と良い信頼関係を築ける社会性,臨床医として日常遭遇する疾患に対する知識・技能の修得,特に,プライマリ・ケアの基本的知識・技能を修得する必要がある.
研修カリキュラムは,プライマリ・ケアに必要なミニマム・リクワイアメントを達成するために,基本的なコアとなる疾患・症候を経験できるプログラムの作成が重要である.
現在,医学部卒業生の八割以上が大学附属病院で研修しているが,プログラムはあっても,コアとなるコモン・ディジィーズは経験できない.
日常遭遇する疾患の多い臨床研修病院においても,「センター」で二年間を見据えた病院群による研修カリキュラムを検討することも大切となろう.
また,研修プログラムは,研修医の幅広い選択に資するように,共通カリキュラム以外は画一化せず,選択枠を組み入れて多様化を図るべきである.
作成されたカリキュラムは,第三者評価機関によって審査され,臨床研修医に公開される.競争がないと研修内容は高められない.財政的裏付けに応える,実行性あるカリキュラムを作成しないといけない.
卒後研修の質を確保するためには,大学附属病院を含む研修病院で,自己評価と病院間相互の評価を行うシステムを構築し,研修の実態を的確に評価・査定する方法を確立し,評価の結果を研修のあり方の改善に生かす方策を確立する必要がある.
研修を提供する側と研修を受ける側双方の評価が必要である.提供する側は,施設,研修内容,指導体制が評価され,受ける側では,到達目標の達成度,研修態度などが評価の対象となる.研修医の目標達成度は,一定期間ごとに評価され,研修指導にフィードバックされる.不十分であった時には,研修修了の認定をしないことも検討すべきである.
二年間の研修における一貫した研修プログラムの作成と実施,ならびに管理と評価を行うためには,各研修病院に「センター」を設置して指導体制を確立する必要がある.
「センター」は,病院群を含む教育責任者との合同研修委員会を開催し,「センター」の果たす役割を評価し,必要に応じて第三者評価を受ける.
責任指導医は,十分な臨床指導経験があることに加えて,教育に関する研修を受講していることが望ましい.大学病院と病院群を形成して,卒後臨床研修を担当する関連病院では,臨床教授制度を積極的に活用すべきである.
日医ニュース目次へ