日医ニュース 第959号(平成13年8月20日)
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医師需給の課題 |
医師需給
厚生省の調査によると,平成十年十二月末現在の全国の医師数は二十四万八千六百十一人で,前回調査の平成八年同期に比べ,七千七百三人の増加となっている.
医師需給については,昭和三十六年に国民皆保険が達成されて以来,繰り返し論じられてきたところである.すなわち,昭和四十年代後期の「無医大県解消計画」によって医師の養成が強化された結果,昭和五十年代の後期には医師過剰時代の到来が警告されたからである.
医師需給に関する公的な最終レポートは,平成十年に「医師の需給に関する検討会」(厚生省)が出した必要医師数と供給数の推計ならびに提言である.これに基づき新規参入医師の一〇%削減策が打ち出された.
医師需給には,マクロ的に需給量がバランスするだけではなく,地域偏在の是正を図り,かつ質の向上を図るというむずかしい課題がある.
二十一世紀は,「医療法」「地方自治法」「医師法」等の改正が進められ,大きな変革の時代になろうとしている.この際,医師需給のマクロ分析だけではみえていない地域の実態を示しておきたい.
開業医の高齢化
図1は,厚生省調査による就業場所別年齢階級別医師数である.診療所の医師の七十歳代に一つのピークがある.高齢化をより具体的に説明するため,3K(広域,過疎,寒冷)といわれる北海道を例にとることにする.まず,北海道医師会会員である開業医の高齢化率(六十五歳以上の医師の割合)を平成十三年五月の時点で郡市医師会別(四十五郡市医師会)に示すと,病院では高齢化率百%の郡市医師会が六(一三・三%),四〇%以上では十七(三七・八%)ある.また,診療所では高齢化率百%の郡市医師会が一(〇・〇二%),四〇%以上では二十六(五七・八%)に及ぶ.
図1
平成八年の「地域保健医療総合システム構築に関する研究」総合研究報告書(田邊達三)でも高齢化の進行は郡部で著しいことが指摘されている.しかも問題は,単に後継者が得られないばかりでなく,北海道の人口十万対医師数が百九十二・八人と全国平均(百九十六・六人)に近いにもかかわらず,都市部では二百二十六・八人,町村部では八十一・一人と格差が大きく,地域のプライマリ・ケアが崩壊の危機にさらされていることにある.平成十一年六月末の北海道の調査によると,北海道の「無医地区」は五十二市町村・百二十一地区を数え,これを白地図にプロットすると惨憺たる状況が出現する.
診療科の地域不均衡
診療科では,内科が多いことは周知のところであるが,最近では高度専門医療に対応した診療科も増えてきている.診療科の地域分布を最近の北海道医師会会員の「主たる診療科」によってみると,内科・外科は全都市医師会を網羅しており,小児科は「従たる診療科」を加えると全郡市医師会を網羅することになる.しかし,眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科・泌尿器科などは三〇%の郡市医師会で欠けている.なお,診療科の分布を市町村単位でみると,人口規模を反映してその格差がいっそう広まることはすでに証明されている.
へき地医療対策
北海道における平成十年度の医療監視結果では,過疎地域,離島に所在する公立病院八十六病院中,八十二病院が標欠となっており,医師標欠総数は三百六十五人となっている.
へき地保健医療の第九次計画がスタートしたところである.「へき地支援病院」が機能していないなど,二次医療圏単位の施策が蹉跌していることから,都道府県単位に広域へき地医療対策が必要であるとする「へき地保健医療対策検討委員会」の提言を受けてのものである.「へき地医療支援機構の構築」「へき地医療情報システムの構築」が対策として掲げられており,今,都道府県の取り組みがはじまったところである.適正な医療資源の開発と配分は至難ではあるが,医療の本来的な使命を遂行するためにはやらねばならないであろう.
われわれは,あらゆる機会を通じ,医療現場の声を施策に反映させ,地域医療の新たな創造のために積極的に取り組まなければならない.