日医ニュース 第959号(平成13年8月20日)

勤務医のひろば
良い医療を行う


 最近,「医療の質」の向上ということがとみに叫ばれるようになってきている.私たちの病院でも,「より良い医療の実践」という標語を掲げてクリニカルパス,インフォームド・コンセント,リスク・マネジメント,診療情報開示などに全病院的に取り組んで良質な医療の提供を目指して努力しているところである.しかし,「医療の質」とは何かと問われると,クリアカットな返答ができず苦慮してしまう.
 産業界では,かなり以前から厳しい品質管理手法を採り入れて生産性と製品の質の向上に努力し,大きな成果をあげていた.しかし,わが国の医療分野では,医師のパターナリズムなどにより品質の管理ともいうべき「医療の質」の向上に向けての努力に欠けていたことを認めざるを得ない.近年にみられる患者の権利意識とコスト意識の高まりは,私たちにも「何が良い医療なのか」ということを絶えず追求し,その実現に向けて努力していくことの重要性を強く認識させてくれる.
 日本医療機能評価機構による病院機能評価が行われているが,病院で実践されている「医療の質」を客観的に評価する判断基準として大変参考になる.診療の質の確保と看護の質の充実に加えて,患者の権利とQOLの尊重,安全の確保を重視した視点に立った評価基準が示されている.これらは「患者さんの満足度を高める医療の実践」として総括されるのではないだろうか.
 今までは,「良い病院」といった何の客観的指標の裏付けもない感覚的で漠然とした表現によって評価されていたものが,多くの観点から総合的に評価されるようになったのである.IT時代を迎えて,われわれ勤務医もさまざまな面から総合的に評価されて,患者さんからの厳しい選別の目にさらされる時代もやがて来るのであろう.常に向上心に燃えて新しい知識技能の取得に努めるとともに,患者さんの痛みや悩みにも共感できる豊かな人間性をも培って,良い医療を実践していくことが求められているのである.

(NTT東日本札幌病院副院長 富田籌夫)


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