日医ニュース 第963号(平成13年10月20日)

勤務医のページ

座談会(その2)
「21世紀における勤務医のあり方」を語る

 勤務医座談会「21世紀における勤務医のあり方を語る」第2回目の今回は,前回に引き続き,「21世紀の勤務医を取り巻く環境の変化」と「医師養成と臨床研修システム」をテーマとした議論の模様を掲載する.

 池田 病院が,地域で残れないかも知れないというお話のなかで,国民の医療に対するニーズの高まりに十分に対応できなくなる厳しさでしょうか,それとも医業経営上の厳しさということを主にお話しなさったのでしょうか.
 昌子 もちろん経営的な危機感を持っているのですけれども,これだけ情報がオープンになってくれば,自然と病院の選別が始まるだろうと思います.また,勤務医自身も情報の透明化,オープン化によって必然的に選別されていくと思います.
 小川 情報公開によって病院が選別されるのももちろんですし,勤務医も医師過剰といわれる時代になっていった場合に,その個々の評価が以前よりはもっとクリアにされていくであろうし,情報公開と相まって,勤務医の質も当然それで上がるでしょう.
 また,勤務医として働いている場合に,上からの評価だけではなくて,患者さんからの評価というのも十分考慮して,勤務医が評価されることが必要だと思います.
 また,勤務医が,病院を評価するための情報公開も必要と思います.
 我妻 医師が過剰になるのは恵まれた地域で,医師の数の偏在は解消されないのではないでしょうか.病院が医師の質を選別できるのは,医師が過剰な地域で,逆に勤務医の立場からすると,選ばれてしまう時代が来るけれども,偏在がある限りは,どんなドクターでも来てくれればありがたいという地域も将来的には残ってしまうと思います.
 少なくとも今現在の私たちの地域には,正直いっていかがなものかと思えるような質の医師が都会から流れてきている現状があります.医療機関が多いわけではないですから,患者さんたちはその医療機関も選べない,医師も選べないという意味で,新たな医師・医療の質の差というのが,また生まれてくるのかなと思います.
 医師が増えてきているのに医療の質の差が生まれてくるというのはいかがなものかなと感じています.
  人口二十五万の当市で,この一年間に十五人も開業しました.これは,医療の過密地帯で,どうにか生き残っていきたいという考え方がベースにあるのではないかと思います.
 それから,地域の偏在は永遠のテーマじゃないかと思いますが,そのために自治医大が設立がされたわけです.厚生労働省や日医がそういった偏在をどう解決していくか.個人に任せていると,小さい地域で過密地帯を自分たちでつくっていき,ますます医療情勢が厳しくなって,悪循環になっているのですが,それがドクターの安心感なのでしょうか.
  多分,診療科の偏在と地域偏在というのは,今のままでいけば,さらにひどくなると思います.外国の例を見てもそうですけれども,医師の数が増えたから必ず周辺地域に行くかというと,そうではなく,医師という職業を捨てても,都会で過ごしたいという人たちが増えてくる結果になることがままあります.
 それで,一つだけ期待をしているのは,臨床研修が義務化されたときに,地域医療に無理やりにでも触れさせられてしまう人たちを一人でも多くつくってみて,その人たちがどういうビヘイビアを取るのかと.これは十年後,十五年後に評価されると思うのですが,そういう仕組みがもしできて,地域医療に無理やりにだけれども接した人たちに可能性があるのかなと,私は期待はしています.
 池田 どこかでコントロールするなど,そういう力学が働かないと,今のようなお話になるのでしょうね.
 我妻 そういう意味で,ジェネラル・フィジシャン(GP)の育て方が不足していると考えられます.GPは,スペシャリストになり損ねた人というようなニュアンスがあるので,GPの立場というものをきちっとつくり,初期の段階で,プライマリ・ケアの現場に触れるということをすれば,少しは,方向性が変わっていくのではないかと思います.

[医師養成と臨床研修システム]

 池田 医師の養成ということに話を進めてみましょうか.アンダーグラデュエイトのところからポストグラデュエイトのところもあるし,二年間の臨床研修の義務化の問題に少し触れながらお話をしていただければと思います.
 小川 トルコに行ったときに,トルコの医学生に通訳についてもらいました.五年生ぐらいですと臨床ができますので,役に立って当然という部分がありますけれども,三年生ぐらいの病理ぐらいしか習っていない人が来ても,十分に私のアシスタントができる.彼らは,糸結びとかも含めて,臨床で役に立つことができる.お国柄の違いもあるのでしょうが,それを目の当たりにして,日本の教育は温室だなと思いました.
 彼らは三年生の時点で,なぜ糸結びができるかというと,形成外科医になりたいから,夜,アルバイトで練習に行っているといっていました.三年生で,ある程度自分の進みたい道をやり出している.どうしても日本は頭でっかちに,まず知識が入ってからでないとやってはいけないという教育システムなので,実際に手が動かせるようになるのは医師免許をとってからになります.学生時代にある程度実習をしながら知識もつけることは大事だと思います.
  うちは大学の教育関連病院ですので,すべて大学からの医局人事で動いているわけです.そうなってきますと,卒後教育をどこでやるのか,一般的な病院のなかで果たして やっていけるのか.それと一般教養をどこで身につけて第一線の病院に来るのか,そこがまだはっきりしていないと思います.
 まず,一般社会に通用する常識人になっていただきたい.医師会として,医師会の考え方,患者との接し方,保険診療などについての教育を通じて,かかわり合いを持っていただけたらいいと思っております.
 加藤 今,ある大学で講義をしていますが,学生はまともに会話ができない.また,仕事の打ち合わせをしていても,つくづく感じます.これでは,やはり患者は診れないのではないでしょうか.医師というよりは,まずは人として教育をする必要があるのかなと思っています.
 昌子 患者さんがクレームをつけるのは,医師の能力というよりも,「あの人おかしいのではないか」ということで,つまり,どこか根本的にコミュニケーションを取ることができないことが原因です.人間的魅力の方が,はるかに医師の能力よりも重要なんだということを,若い医師にはいっています.
 卒前の教育で,開業医のところにローテイトで行くような形がうまく機能すれば非常にいいと思います.コミュニケーションに関する教育は,早くやるほうがいいですね.
 加藤 大学のなかで実習を行うと,やはり甘やかしてしまいます.いい学生がいれば,うちの医局にと一生懸命説得したりして,甘やかされた実習になりかねない部分があるように見えます.
 そういう意味では,外へ出して,きちんとした実際の厳しい現場を見せて,実のある実習をすることを考える必要もあるのかと思います.
 田中 平成十六年からスーパーローテイトということで,当院でも各科でカリキュラムを考えて進めていますが,これが机上のカリキュラムにならなければ良いがと思います.
 実際に何人かが来られたら,現在,診療で手一杯という状況で,指導する側の人も増えず資金的な援助もさほどないなかで,果たしてできるかなと感じています.
 小川 病院に研修に来る学生に聞くと,スーパーローテイトになると,「大学を選ぶ人はあまりいない」ということです.やはりそのあたりは現実的で,みんな分かっているなという感じはするので,それに合った形に変えない病院は生き残れるか,それは大学であっても厳しいのであろうという感じは受けます.
 ただ,多数来たら,うちの病院でもスタッフ的には大変ですが,学生を教えることによって得られるメリット,刺激とかも含めていろいろありますので,受け入れるということは非常にいいことだと思います.

出 席 者
(司会)
池田 俊彦
(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会理事)
我妻 千鶴 (我妻病院副院長・札幌医科大学非常勤講師)
小川 朋子 (山田赤十字病院外科副部長)
加藤 済仁 (弁護士:加藤法律会計事務所・順天堂大学医学部客員教授)
昌子 正實 (宇都宮社会保険病院副院長・栃木県医師会常任理事)
田中 一誠 (県立広島病院腎臓総合医療センター長・広島市医師会副会長)
南   浩 (社会保険久留米第一病院副院長・久留米医師会理事)
星  北斗 (日医常任理事)


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