日医ニュース 第969号(平成14年1月20日)
勤務医のひろば |
「小児科医は人は良いけど,金と力は無かりけり」
自分自身を振り返って強く思う今日このごろである.
なぜかというと,われわれ小児科医が超低出生体重児の救命など,子どものためと信じ,昼夜惜しまず医療に没頭するうちに,小児医療を取り巻く社会基盤がどんどん崩れ去る現実を目の当たりにするからである.実際不採算という理由で,多くの病院小児科が閉鎖されるという悲しい現象が起きている.
一方,少子化の進むなかで小児救急の重要さが叫ばれている.
しかし,現実はどうかというと,小児科は手間のかかるわりに患者一人当たりの収入が低く,大きな人的経済的支援無しに病院小児科医に夜間救急の多大な負担がかかっている.通常,病院小児科の夜間救急では当直はほとんど眠れず,翌日も一日中働くなどはざらの過酷な労働環境にさらされている.
それに加え,地域医療のために一生懸命働けば働くほど,初診一次救急の多い小児救急では病院全体の紹介率を大幅に下げてしまい,今の健康保険制度下では病院経営の面から小児科医がにらまれ,肩身の狭い思いをする.
「正直者がバカをみる」こんな医療システムは,いいかんげんにしてほしい.小児科医のがまんも,もはや限界にきている.このままでは,小児科医を続ける医師が一人もいなくなっても仕方がない.
子どもの軽視,小児医療の軽視,そして小児科医の軽視はもうやめてもらいたい.
将来の日本のためにも,そして何より未来を背負う子どもたちのためにも,「Baby first, Child first」の思想(Robin karr-Morse & Meredith S. Willy:「育児室からの亡霊」)が広がり,生命を削りながら一生懸命働いている小児医療には,必要なお金が流れるような,そして,病院小児科医の体と心が崩れないような良い医療システムの構築を心から願う.
(淀川キリスト教病院副医務部長 船戸正久)