日医ニュース 第973号(平成14年3月20日)
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これからの医療に向けた医療機能評価の視点 |
社会の国際化と情報化が急速に進むなかで,組織体の生存をかけた競争が,あらゆる分野で激しさを増している.医療社会もその例外ではない.
病院医療として将来への発展に備えるため,医療機能評価により質のあり方を追求することは,欠かすことができない重要な課題である.その一端として,日本医療機能評価機構が,平成十四年度より施行する新評価体系の核となる視点を紹介して参考に供したい.
評価領域について |
新評価体系の柱となる領域は,
(1)病院組織の運営と地域における役割
(2)患者の権利と安全の確保
(3)療養環境と患者サービス
(4)診療の質の確保
(5)看護の適切な提供
(6)病院運営管理の合理性
―の六領域からなる.
それとは別に,精神科と長期療養の特殊領域と臨床研修・救急・リハビリテーションの評価体系が設けられる.
病院組織の運営と地域における役割[第一領域] |
病院の運営に当たり,病院の性格,規模に応じて,理念と基本方針,あるいは地域医療に果たす役割が,病院医療としての責任を果たす体制として確立されている.特に,「病院管理者・幹部のリーダーシップ」が,基本方針,将来計画,運営体制・質の向上と効率化等に対して,診療の現場に発揮されているかどうかについて指導力のあり方が重視される.
指導体制の重要性については,JCAHOのSentinel Eventの要因分析において,Event(事故)が起こる以前の段階で「可能性のある種々の危険因子の防止について連携と協力をすること」「事故を発見したり防止する」ための指導体制の有無が重要な視点の一つになっていることを参考の一例として挙げておきたい.
また,情報システムを導入して,院内・院外との「情報管理機能の整備と活用」の充実に力が注がれており,併せて,診療情報の開示と提供を明示することは,病院の基本姿勢を示す意味で重要である.
患者の権利と安全の確保[第二領域] |
患者の権利を認識し,心身の安全を確保するために心を砕くことは,医療専門職としての原点である.組織医療として,また,勤務する医療職一人ひとりが,職業倫理を日常の業務にどのように生かしているかが問われる.
説明と同意,安全性を確保するための組織体制とそれを進めるための手順,診療録をはじめとする診療情報の収集,記録の責任性,評価,改善に関する体制,教育と訓練,院内感染管理のあり方などに周知が必要である.
療養環境と患者サービス[第三領域] |
患者のQOLに深くかかわる環境の整備は,専門性を優先する病院医療の盲点となることが多い.接遇と案内表示,プライバシーに配慮した電話の設置,患者の利便性とバリアフリー,病室や食事,病床,入浴,トイレなどの管理のあり方は,病院を利用する患者や家族に安全と安らぎを与える大切な問題である.
診療の質の確保[第四領域] |
診療の責任体制,医療機能の質を支える各部門の組織・構造・機能は,診療の質を確保するうえで重要であるが,今回,新しく「適切な診療活動の展開」として,評価の視点を患者の入院から退院に至るプロセスを軸において,各部門の業務のあり方を評価することが導入された.主治医体制,回診等の定期的な診療管理,診断,検査・投薬・手術等の診療計画,実施と記録の確認,患者・家族との連携,緩和医療,行動制限への配慮,緊急時の対応,継続性の確保に必要な退院時の対応等が,患者に機能的に集約される体制になっているかどうかを,各部門の業務を縦割ではなく,患者を中心においた視点に立ってみることにある.
また,診療過程での各職域の合同による症例検討,診療実績等の統計資料の有無は,アウトカム評価につながることとして重要視される.
しかし,最近,欧米で,アウトカム評価に対して,プロセス評価の重要性が再認識されていることを付言しておきたい.(ISQua発行誌:Int. J. Q in H. C. 13:6, 475, 2001)
看護の適切な提供[第五領域] |
常時,患者に接する立場にある看護が,病院機能の質のかぎを握っていることを,他の職域も認識すべきである.ここでも,プロセス評価の視点に立って,「適切な看護活動の展開」として,看護の責任体制,看護基準・手順の活用,看護計画,看護部門の検査・投薬・手術・食事等へのかかわり方,患者・家族との連携,逝去時の対応等が評価の対象となる.
病院運営管理の合理性[第六領域] |
組織医療としての病院機能の質を支えるのは,運営基盤の確立である.特に,優れた経営管理能力が,技術部門の質に対する自律と創造力を生み出す力になることは間違いない.全職域が,その重要性を認識して,相互の理解と協力体制が確立されていることが大切である.
人事,財務,設備,診療材料などに関する,管理,運営のあり方は,すべてこれに属する.特に,これからの医療を考えると,訴訟問題に対して,きめ細やかに対応する体制づくりは重要である.
なお,新評価体系における評価項目の暫定版は,日本医療機能評価機構ホームページ(http://www.jcqhc.or.jp/)を参照されたい.