日医ニュース 第979号(平成14年6月20日)

勤務医のひろば
卒後臨床研修必修化の先に


 卒後臨床研修必修化の実施まで,あと二年弱となった.安田講堂の激動に至る思いは人さまざまだが,わが国のインターン制度改革の兆しが頓挫して三十年以上の時が流れた.
 われわれはインターンになって,なんとか臨床らしきものに触れることができた世代である.無給の大学から脱出するには,研修指定病院の選抜試験に合格せねばならず,外に出られた喜びは大きかった.当時の研修教育指針の詳細は不明だが,教育する側ものんびりしたもので,楽しく各科を回った記憶がある.
 初めての手当は確か三千円.当時の大卒初任給に比べれば微々たる額であるが,それでも喜んでいた医師免許のない卵たちは,まことにかわいいものであった.
 医師となり,地方の病院へ派遣された折,インターンでの臨床経験が思わぬことで役に立ち,無駄でなかったことを実感した一人でもある.
 時代は変わった.やがて始まる初期臨床研修の二年間を,すでに医師となった若者がいかなる気構えで臨むか期待される.だが,二年で事足れりでは済まされない.最近,話題となっているプライマリ・ケア医あるいは家庭医などは,初期研修後の新たなトレーニングシステムを確立しない限り絵に描いた餅となる.蛇足ながら,米国の家庭医は厳しい研修を受けた専門医であることを知るべきである.
 日本の医師の七割は勤務医であるといわれる.その勤務医の過酷な勤務状況,研究時間不足,経済的不安,不透明な将来などを代弁する機構は,いまだないに等しい.医師会に勤務医会はあるが,若手医師の関心は薄く,もはや医師会だけの問題とは思われない.
 今日の医療の問題点や報道への反論などを,医学界の各分野が勝手に連呼するだけでは国民の納得は得られまい.われわれの総意を政策提言まで挙げるには,医学界内部の壁を一掃したシンクタンクの構築が急務ではなかろうか.
 官ではなく,政治主導の医療改革を推進するために,医学界の姿勢が問われている.

(厚生中央病院長 片場嘉明)


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