日医ニュース 第983号(平成14年8月20日)
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禁煙対策について |
欧米の多くの一流病院では,かなり以前から院内禁煙が徹底しており,違反者には罰金を科しているところもある.また,先進諸国の航空機内はすべて禁煙であるが,わが国でもやっと数年前から禁煙に取り組み,当初はその実行に危惧する人もいたが,ほぼ定着している.
最近では,W杯サッカーの全二十会場がすべて禁煙になったことが注目された.ここでは,国内外および医師会における禁煙対策の動きなどについて概説する.
世界の禁煙対策
現在,世界で年間四百万人がたばこで死亡しているという.そのようなことから,世界保健機関(WHO)は,一九七〇年以降,たびたびたばこの健康に及ぼす危険性の大きさなどを訴え,たばこの規制について加盟国に提案してきたが,一九八九年になり,毎年五月三十一日を世界禁煙デー(World No-Tobacco Day)とすることを決議し,それ以来世界各国でさまざまなイベントが行われている.
一九九九年十一月には,神戸で「たばこと健康に関する神戸会議」が開かれ,「たばこ対策枠組み条約」の骨子案がまとまり,二〇〇三年には条約を採択し,その後,具体的規制を盛り込んだ議定書の作成をめざすという.
例えば,先進国が税率を上げて消費を抑えようとすると途上国への輸出が増え,世界的な抑制につながらないなど,各国ばらばらの規制には限界がある.しかし,法的拘束力を持つ条約のもとで足並みを揃えることができれば,先進国と途上国が協調して規制に取り組み,対策を効率的に進めることができるというものである.
米国では,政府自身が積極的に禁煙に動き出し,フィリップ・モリスなどたばこメーカー各社を相手に,肺がんなどの喫煙による病気に絡んで米政府が負担している年間推定二百億ドル(約二兆八百億円)を賠償するように求める訴訟をワシントンの連邦地裁に起こしている.「国民を欺いて危険な商品を売り続けた業界は組織的犯罪集団(マフィア)に匹敵する」と主張しているのである.
また,今年に入って肺がんで死亡した患者家族が,百〜二百億円の損害賠償を求めた裁判での勝訴が次々と伝えられている.
日本の禁煙対策
一方,わが国では,一九〇〇年に未成年者の喫煙禁止法が施行されてから百年以上を経過しているが,未成年,特に小・中学校生に拡がる喫煙は増加する一方である.
約二兆円のたばこによる税収(一〇%は未成年者からの税収)が入ることから,政府も禁煙にはきわめて消極的であったが,健康づくりの十カ年計画としての「健康日本21」の策定作業を進めていた当時の厚生省は,一九九九年八月にたばこ対策の分野についての「成人喫煙率(男性五五・二%,女性一三・三%)やたばこの消費量を半減させる」目標案をまとめた.
ところが,翌年二月になり,厚生省の「健康日本21」企画検討会では議論が紛糾し,「喫煙率半減」「たばこの消費量半減」のスローガンを削除することが決定された.計画の目玉ともいうべき計画が,土壇場に来て,「圧力に負けて後退」という印象を与えたのはいかにも残念であった.
本年二月になって,超党派国会議員による「禁煙推進議員連盟」が設立された.新たな法律制定も視野に政府への働きかけを進めることで合意され,活動が開始されている.また,六月になって,たばこを吸わない加入者が喫煙者に比べて保険料が三一・八%割り引かれるがん保険が初めて販売された.
日医の禁煙対策
日医は,たばこ問題にやや消極的であったが,一九九九年にブルントラントWHO事務総長が来日した際に,坪井栄孝会長は座談会のなかで,「日本の喫煙率を下げる方向で進める」との意思表示を行い,まず,二〇〇〇年二月から六月にかけて,日医会員の喫煙についてのアンケート調査を行っている.その結果,喫煙率は男性二七・一%,女性六・八%で,男女とも一般国民の半分くらいであったが,アメリカの九%,イギリスの四%など世界に比べるとかなり高い.
翌年四月には,「禁煙推進プロジェクト委員会」が発足し,十二の事業項目を明らかにした.また,日医会館の全面禁煙,テレビによる禁煙啓発(「からだ元気科」等)や市民公開講座が行われ,ビデオ「肺がんに禁煙キック!」(日本対がん協会制作・坪井日医会長監修)が全国の中学校に配布・贈呈された.
本年六月には,イギリス医師会のなかのタバコ コントロール リソースセンターが発行した「Doctors and Tobacco」(デビット・シンプソン著)の翻訳本が作成され,都道府県医師会や郡市区医師会などに配布された.これはイギリス医師会員約四万人を研究対象集団として四十年間追跡して得たデータを基に書かれたというきわめて重みのあるもので,副題のとおり「医師・医師会は何をすべきか」を問いかけている.
医師会館の全館禁煙化も徐々に進んでいるが,本年七月現在日医会館の他は十一県にすぎない.引き続き,禁煙推進活動に取り組んでゆく必要がある.
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現在さまざまな市民団体が禁煙の推進に取り組んでいるが,坪井会長も運営委員である日本禁煙推進医師歯科医師連盟(Tel/Fax 03-3239-1805)の活動は刮目すべきものの一つであり,すでに九十施設(本年七月現在)の禁煙実施病院の表彰が行われている.
また,学会ぐるみの禁煙対策もようやく動き出している.本年四月に札幌で行われた日本循環器学会第六十六回学術集会において禁煙推進委員会が設置され,「禁煙宣言」が行われたことなどは特筆される.
いずれにしても,健康を守ることを職業としている医師が,禁煙対策に取り組むべき最も近い位置にいるという認識が重要であろう.