日医ニュース 第989号(平成14年11月20日)
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萩市民病院のIT化 ―医療のIT化は病院に何をもたらすか― |
当院は,二○○○年四月の移転新築に伴い,カルテと高額画像診断機器情報の電子化を導入した.内部的には,合理性を追求するべくIT化を積極的に行い,患者との対応部分には,なるべく人を配置し,人と人とのふれあいを大切にする病院を目指した.
IT化導入により,カルテ庫と画像フィルム収納スペースは節約され,人によるメッセンジャー業務は消失した.さらに,予約診療のため集中的な患者の来院状況も回避され,業務時間内の廊下やホールにおける人の混雑がまったく見られなくなった.
医療現場では,見たい情報を最寄りの端末から簡単にアクセスでき,院内のどの端末からも同時に参照することができるので,院内ピッチとの併用でパラメディカルも参加し,意思統一されたチーム医療が行えるようになった.患者からの問い合わせに対しても,その場で電子カルテを立ち上げ,回答を行ったり,過去の画像や数値データをグラフ化してすみやかに表示し,インフォームド・コンセントに利用している.
また,外来では,患者が自分のカルテに見入っている姿は印象的で,患者参加型の医療が浸透していく様子を実感しており,情報開示を目指す病院方針の鮮明なパーフォーマンスになっている.
縮まった離島との距離 |
一方,電子化された画像を利用して,高度医療とのタイアップおよび離島医療支援を目的に,大学病院―当院―離島診療所の三点間で画像伝送システムを構築している.大学病院間では,専門的な診断,治療方針の決定,あるいはがん検診の二重チェック等に活用しながら高度医療への継続を保証する.例えば,画像伝送による診断支援を仰ぐことを患者に説明すると,患者の反応はどうかということであるが,これは予想以上で,かけがえのない「患者からの信頼」を得ることができつつある.
一方,離島診療所間では,CR画像のやりとりで年間百例以上の実績を上げている.特に診療所医師に対しては,コミュニケーションをスムーズにするためにカンファレンス機能を付加し,顔を見ながら相談できる体制を整えている.
IT化に必要な医業への理解 |
IT化に伴う導入コストを抑えるために,カスタマイズされたアプリケーションを使用するので,院内での運用に際し,部署間での取り決めが詳細に必要で時間を要する.医師の本来行うべき仕事が明確化し,他の職能に委ねられない仕事が出現する.ゆえに,医師の医業に対する理解がない限り,医療情報のIT化はあり得ない.
また,他の職能でも可能な業務,いわゆる狭間の業務については,できるだけパラメディカルの協力を得ることになる.患者情報の頂点は医師の記入する記事であり,それを中心に看護師をはじめとするパラメディカルの作業を加えて診療録が成立するわけで,チーム医療の中心に医師がいることを各医師が自覚し,また,意識改革をしていかなければならない.医師の記入する記事情報は特にデリケートであり,カルテの書き方についての教育は基本ではあるが,初心に戻り十分行う必要がある.
医療情報の電子化は,情報の蓄積がされればされるほど,時間と正確性の両面から必ずや真価を発揮してくると確信している.電子情報化で最も問題になるのはセキュリティであるが,院内と院外の情報はライン的に切り離して運営している.一方,当然ながら継続的な職員教育が必要となってくる.
今後の新たな展開 |
今後は,数カ所の地域内へき地診療所との電子カルテを含んだ面ネットの形成を行い,診療所にいながらにして当院の診療に参加できる環境を作り,少しでもへき地住民に安心してもらえる医療体制を提供したい.結果論ではあるが,この体制づくりは患者紹介率の向上にもつながって行くと考えている.
また,患者診療経過を一画面表示するナビゲーションケアマップの構築を行い,診療進展状況をリアルタイムで把握し,合理的な診療の客観的評価や,入院単価の算出に利便性を発揮させたい.当然,この機能はクリティカルパスの運用に連動することになる.
求められる病院トップの決断 |
医療情報の電子化は,病院経営面で考えると,高額な導入コストが最大のデメリットである.確かに時間の経過とともに導入コストダウンは図れるであろう.
導入の時期を果たしていつにするべきか.
厚生労働省は,医療のガイドラインのなかで電子カルテ導入指針を打ち出した.一般医療における包括化やMDC(Major Diagnosis Category)による臨床病名とレセプト病名のつなぎこみ作業も着々と進んでいるなか,医療の情報化により,請求作業を単純化し,その分,危機管理や感染対策など真の医療上の問題に職員の能力と労働力を傾ける時代が,今まさに到来している.
チームが見て事務が見られる情報にいい加減なことは書けなくなり,診療に真剣さと謙虚さが生まれるのではないかと最近つくづく思う.これこそ,今社会が求めている医療ではないか.
要は,病院のトップがIT化に対し,目に見えないコストベネフィットをいつ,どのように見出すかが,導入時期を決定する最大の要因になると考える.
(萩市民病院長 河野通裕)