日医ニュース 第999号(平成15年4月20日)

勤務医のひろば
前車の轍


 来年四月から始まる新しい卒後臨床研修制度は,二年間の必修期間にプライマリ・ケアの基本的能力を磨き,同時に医師としての人格涵養を図る,というものである.
 しかし,昭和四十二,四十三年のインターン制廃止,登録医制への移行の混乱のなかに身を置いた者として,後輩たちの不安と動揺する今の気持ちが痛いほどに分かる.
 当時,慌ただしく進められる国会の法案審議に不信感を募らせ,非入局,自主カリキュラム研修の戦略も遂には強圧と矛盾のなかに挫折してしまった思いが残っている.それだけに,今度こそ百年の計に立つ制度に育ってほしいと切に願うものである.
 しかるに昨今の改革をめぐる動勢はどうであろうか.次年度政府予算案には,新制度に取り組む姿勢は見い出せず,研修医の身分,なかんずく経済的保障はだれが,どのように負担するのか,いまだ議論は中断したままである.
 マスメディアの論調も,日本の医療の将来像を真っ向から世論に問うものは少なく,恣意的に騒ぎ立てたり,前近代的医学教育の旧幣に押し込め,口を拭うものが多い.
 頼りとする日医.最近では,「医療特区,三割負担」の問題に手一杯の状態で,せっかく提唱した「地域施設研修方式」の進捗状況さえ残念ながら伝わってこない.
 このままでは積年の問題解決への糸口さえつかめぬまま,二年間の研修義務化という官僚の机上プランだけが走り出してしまうのではないだろうか.
 “医師として,次の世代を担う後輩たちの教育を他人任せにせず,自ら情熱を込めて育てていこう”という日医が掲げる理念をどのように具体化し,実践していくか,将来を見据えた組織としての重要な命題である.
 会員相互の共通認識に裏付けられた主体的行動を,今こそ強力に展開すべきではないだろうか.
 新制度発足を前に,この焦燥感が杞憂に終わることを願って止まない.

(長岡西病院副院長 佐々木公一)


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