日医ニュース 第1001号(平成15年5月20日)

勤務医のひろば
日本人の禁煙の現状と身体への影響


 一九〇〇年に未成年者喫煙禁止法が施行されたが,成年の喫煙禁止法の施行に対して,政府は消極的である.
 民間では,駅構内の禁煙,禁煙車輌,公共の場所の禁煙と喫煙所の設置など禁煙対策は高まりつつある.これに反し,未成年の喫煙は,中学生の男子七・五%,女子三・八%,高校生男子三六・九%,女子一五・六%と,驚異的に増加し,女性の喫煙も増加している.
 一方,成人男性の喫煙率は五二・八%と,減少傾向にあるが,欧米に比し,高値である.また,受動喫煙など,わが国の道徳教育の低下,喫煙家庭の子どもの放置,社会環境などの影響が大きい.
 日医会員の喫煙調査では男性二七%,女性一二%で,一般の半分であるが,米国九%,英国四%に比し,高い.日医は,医師が率先して喫煙の悪影響から国民の健康を守る使命があるとして,禁煙に関する日本医師会宣言を発表した.
 最近,英国のデビット・シンプソン著「Doctor and Tabaco」は大きな反響を呼んだ.また,たばこ対策枠組条約(第五回)は国際的理解を深めた.
 喫煙の身体への影響であるが,たばこはニコチン,タール,一酸化炭素(CO)など多種類の化合物を含み,特に,タールは,癌原物質のホルムアルデヒド,ベンゼン,サイアナイド,アクロレインなど十種類以上を含有,肺がんをはじめ,食道がん,喉頭がん,膀胱がんなど,多くのがんの原因となる.
 喫煙によりCOの四〇〇ppmが肺に吸入される.COはCO2の二百四十倍の強さでHbと結合し,O2とHbとの結合を妨げ,酸欠状態となる.私が行った呼気中のCO測定では,非喫煙者の五ppmに対し,喫煙者は三〇〜五〇ppmと高値,禁煙により一〇ppm以下となり,検者全員が喫煙を止めた.
 喫煙による気道の線毛の消失と分泌線肥大は,慢性気管支炎を発症,また,気道の扁平上皮化成から前がん組織に変化する.肺胞と毛細管の喫煙傷害は,肺気腫の原因となる.長期喫煙は,ニコチン依存症となる.
 喫煙は,狭心症,心筋梗塞および早産,流産の誘因となるなど,喫煙問題は先進国日本の大きな課題である.
(静岡県・新富士病院長 荻原正雄)


日医ニュース目次へ