|
第1011号(平成15年10月20日) |
座談会2
─勤務医と医師会医師会活動─
勤務医座談会「勤務医と医師会活動」2回目の今回は,前回に引き続いて「医師偏在」をテーマとした議論の模様を掲載する.
医師偏在への対応策
内山
医師の偏在は,まず,医師になる入口の問題で,何科の医師になるかは医師偏在にすごく影響を及ぼしてきます.全国的に麻酔科の不足というのは,極めて重大な事態になっていますが,各科で自由に選ばせた結果がこうなんですね.これを是正するには,厚生労働省,文部科学省が一緒になって,ある程度リードしていかないと,これは絶対に改善しないと思います.
また,医師の地域偏在は医師の問題ではなく,地域の問題です.魅力のない地域というのは,すごく沈滞していますが,その部分現象として医師の偏在が現れていると思います.
大谷
あえて反論的な視点でですが,保健所はその魅力があるなしにかかわらず,要するに行政の機関として配置されています.
病院も本来はそうした社会資源としてあるならば,やはり,政治・政策のなかでもう一度考え直すということも大事だと思います.西欧諸国では,そうした観点で病院の配置が決められているはずだし,高度医療機関も一つの社会資源としての位置づけが大事だろうと理解しています.
望月
公的施設はつくれるんですが,でも現実的に,そこに働く医師が医師法の定数を全然満たしていない.要するに,へき地の病院長の仕事は,大学の医局へ行っての医師獲得なんですね.そこのところをどうするかが問題だと思います.
大谷
やはり,国としてはどういう配置が望ましいのか.それは病院の配置を決めていくと,医師の配置も決めるということに当然なると思うし,小児科医の配置もそうだと考えるんですが,そこまでできるかの話ですね.
リー
私が厚生労働大臣だったら,へき地に行く人たちにもっとお給料を出すことも考えます.そして,さらにへき地の医療を一年間やってきたら,何らかの特権のような,例えば,就職先を確保するなど,その後のアフターケアまで含めて,深刻なへき地対策には行政がもっと積極的な方策を立てるのがいいかと思います.
白水
小児科の場合には,今,公的病院はどこでも独立採算で,小児科をつぶしているところが多いので,小児科医になったら,将来就職する場所がなくなるのではないかということも,若い人が小児科を志向しない一因だろうと思います.
やはり,小児医療は,経済の問題ではなくて,国の基本的な施策としてやらないと偏在はなかなか解決しないと思います.
大谷
鳥取県立中央病院は,地域医療圏人口が三十万人ほどですが,地域で完結しなければということで,結構高度なこともやっています.
ところが,高度なことをするには,医療器械,スタッフもそろえなければなりませんが,人口が少ないと非常に経済効率が悪いわけです.つまり,ここに政策医療ということが入って,やはり,収益以前の観点があるんだろうと考えます.
現在は,病院勤務医が長時間勤務をしながら何とか回っている状態ですが,この状態は医療安全上もまったく好ましくないので,勤務医の労働実態を明らかにして,医師を増やす必要があると思います.
医師過剰は本当か
池田
一方で,医師過剰といわれるのは,何が原因でしょうか.必ずしも一般の人だけではなくて,医師会自身もいっているような気がするんですが.
内山
医師過剰は,行政とマスコミとが作りあげた幻想でないかと思っています.
例えば,三十年前に適正と思われた医師数を基にして過剰としたのであれば,もう時代錯誤もはなはだしいですね.みんな専門分化しています.医療の内容もすごく多岐にわたってきて,患者さんの要求も非常に高くなってきて,以前とは判断基準が違うんだと思うんです.ですから,私は決して過剰でないと思います.
これはもっと医師会がマスコミを上手に使って,国民の理解を得る必要があると思います.
リー
現在は共働きが多く,お子さんを医療機関に連れていく時間は五時過ぎになることも多い.あるいは午後からの勤務の方もいますので,今までのように勤務時間九時〜五時でやっていますと,そこから外れ出てしまう方々が数多くいることになってしまいます.
それに対処するには,医療のスタイルをもっとフレキシブルに変えていくとか,勤務医と医師会が連携して,病院の勤務医だけで足りないところは,開業の先生が手助けに入るなどすればいいと思います.
逆に,例えば休日診療は,ほぼ医師会の先生がやっておりますけれども,勤務医の方にも助けていただく,お互いに補う形にして,時間偏在,科の偏在の是正にならないかなと思います.
白水
リー先生がいわれたように,時間のずれというのは非常に大きいと思います.
二十四時間何でも手に入るという生活にわれわれも慣れてきてしまっているので,決まった時間に病院に合わせて受診するなどということから外れた感覚を持った,特に若い人たちが多いと思います.
これはもう時代の流れだと思いますので,特に公的な病院,あるいは開業医でも,今日は午前中はお休みにして午後から夜遅くまでとか,そういう少し時間をずらして,お互いにローテーションを組んで連携ができるような診療ができないのだろうか.
医師会と地域の病院とが連携してやれば何とかなるのではないかと思います.
大谷
私どもの病院では,小児科の医師は夜十時までいますので,地元の先生方の支援にもなり喜ばれており,病診連携の機能としてもずいぶん上がってきているのは事実ですが,逆に病院の医師の負担が大きくなってきます.
われわれのような公的病院の勤務医は,全科にわたって絶対的に少なく,もう悲鳴を上げています.
白水
アメリカのように,もう少し開業医が病院のなかに入ってきて,ただ,患者さんの顔を見るぐらいで,実際の診療には手を出せないようなことではなく,診療行為をできるようなシステムをつくれば,若い開業医さんたちは,まだやりたいことがたくさんあるので,入ってくると思います.
池田
アメリカのアテンディングドクターの場合は,かなり経験豊富で優秀な専門医です.しかも,病院にいるのはレジデントが中心だから,日本の開業医みたいに,病院に行って勉強させてもらうという感覚ではなくて,教えに行くんだという感じなので,敷居も高くなくて,そういうところに違いがありますね.
出 席 者
(司会)
池田俊彦
(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会副会長)
内山政二
(国立療養所西新潟中央病院整形外科医長)
大谷恭一
(鳥取県立中央病院医療局長)
白水明代
(小倉第一病院副院長)
望月 泉
(岩手県立中央病院消化器外科長)
リー啓子
(リーメディカルクリニック院長)
星 北斗
(日医常任理事)
|
|