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第1025号(平成16年5月20日) |
平成14・15年度勤務医委員会答申その2
「勤務医と医師会活動」
勤務医委員会は,坪井栄孝前会長からの諮問「勤務医と医師会活動」について鋭意検討を行い,本年3月に答申を取りまとめた.今号では,第1021号(3月20日号)に引き続いて,その概要を紹介する.なお,答申全文については日医ホームページ「勤務医のコーナー」を参照されたい.
III,勤務医の労働環境をめぐる問題と対応
一,医師の適正配置をめぐる課題
大学の医局に勤務医の供給を頼っている多くの病院では,すべての診療科で必要とする医師を確保することは困難となっている.
診療科別ならびに地域差による医師配置の不均衡を改善する方策として,まず,いくつかの都道府県医師会で運用されているドクターバンクを全国的に広め,統一的に運用してはどうだろうか.日医が全国規模でドクターバンクの組織的な運営を行えば,医師不足の地域で必要な医師が得られる可能性がある.
また,新臨床研修制度が始まることにより,基本的総合診療を実践する能力が身につくので,それを維持するための仕組みとして,過疎地域での基本的総合診療実践を義務化すべきである.過疎地域での診療等に従事した医師のみが,診療所を開設したり,病院の管理者,大学医学部の臨床系教授になることができる制度の新設を提案したい.
二,医師の過重労働と長時間労働の問題
医療の高度化等により,医師の仕事量は増加するばかりである.週平均の労働時間も長く,さらに当直翌日も通常勤務となり,三十二時間強の長時間労働となっている.このような勤務医の過酷で厳しい状況は,労働基準法に照らして問題視されており,緊急な対策が必要である.また,質の高い医療,安全な医療を推進するうえで大きな問題である.医師の七割近くを占める勤務医のこのような状況の改善について,医師会は優先課題として取り組むべきである.
三,女性医師の抱える問題
医学部の女子学生数は増加しているが,封建的な医学界では女性医師の活躍の場は少ない.
この問題に関しては,医師としてのキャリアと家庭,子育ての両立に対する環境が整備されていないということがあるが,女性医師本人の仕事に対する情熱,モチベーションの問題が大きいことも否めない.周囲の理解がなく,環境が整備されていないことは,わが国の現状では一朝一夕には解決できない問題であり,そのような環境のなかでも自分が医師としてのキャリアを捨てずにすむにはどうしたらいいかを,自身が考えていく必要がある.
しかし,女性医師に責任を押し付けていては医師会の存在意義はない.医師会としては女性医師が働きやすい環境の整備を進め,理事など医師会の中枢機関に世代を超えた女性医師を登用していくべきである.
IV,勤務医の医師会活動推進のために
一,勤務医自身の医師会員としての認識
昨今の医療変革期においては,勤務医が医師会員である認識を深め,共通の理念と目的意識を持って医師会活動に協働すべきであることは疑う余地もない.そのためには,医師会の内情を見極め,いかに医師会の理念と目的に適うことができるかを認識すると同時に,医師会組織をしっかりと把握し,開業医との垣根を意識せず,積極的に医師会活動に参画する姿勢が重要である.
勤務医,開業医ともに共通の認識を持って地域医療にあたるべき時期が到来している.
二,医師会の意思決定機関への積極的参画
医師会の会員数の約半数は勤務医でありながら,医師会は従来開業医中心の活動を行ってきた.医師会は代議員会や理事会において,多くの勤務医がいる方が,より幅広い議論が行われ,広い視点での方針決定がなされるのではないか.勤務医が,医師会活動へ多方面に主体的に参画できるよう,医師会組織,部会・委員会等の構成ならびに活動内容に,今後,積極的な見直しを行い,時代の要請に応じてゆける医師会づくりを行う時期が到来している.
全会員が医師会に対し強い帰属意識を持ち,強い結束力で医師会の理念・目標に向かって力を尽くすことが肝要である.
まとめ
上医は国を医すといわれるが,今こそ政(まつりごと)を医すことが重要だと強く実感される.
勤務医が,国民医療を守るという視点で,医政活動に積極的に参画していくことで,勤務医自身もさらに意識改革をし,医師会変革の推進力としての役割も果たし得るだろう.
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